新規事業のアイデア発想法とは?決断するための具体的なポイントを紹介
多角化・新規事業
こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。
感染症の流行や国際紛争、多発する自然災害などをはじめ、経済に影響を及ぼす事象が多発する現代。
さらに、DX化やAIの進化といったテクノロジーの革新に伴い、経営者の皆さんもこれまでのビジネスモデルを進化・見直さざるを得ないと感じておられることでしょう。
時代の変化に合わせた経営を行うにあたって、新規事業を立ち上げることは非常に有効な一手となり得ます。
しかし、「新規事業で何をするか」と考え始めるとなかなかアイデアが浮かばない、まとまらないと悩んでしまいますよね。
今回は、自社の強みをうまく生かした新規事業を生み出すための発想法をご紹介します。
既存事業が十分うまくいっているという皆さんも、読んでおいて損はないはずです。
目次
- 新規事業のアイデア発想法とは?役立つフレームワークを紹介
- 新規事業を決断するにあたって具体的なポイントとは?
- 新規事業を決断するタイミングとは?
- 新規事業のアイデア発想法を知り、決断するタイミングも意識しよう
新規事業のアイデア発想法とは?役立つフレームワークを紹介
そもそも新規事業がなぜ必要かというと、一番の理由は「企業のさらなる成長のために必須なプロセスだから」。
もちろん、現在成長期でガンガン既存事業を伸ばすべき、といった状況であればそこをやっていくべきでしょう。
ですが、既存事業が調子の良いうちに次の手を考える、あるいはもうワンステップ上の成長を見据えるといったことをしておけば、よりスムーズに事が進むと思うのです。
特に成熟期に入って業績の伸びが緩やかになれば、いつまでも現状維持というわけにはいきません。
既存事業がある程度頭打ちになってきたなら多少なりとも利益が出ている間に、再び事業を活性化する方策として新規事業を立ち上げることも必要になってくるでしょう。
さて、それでは新規事業のアイデアはどうすれば生まれてくるのか。
考え方を可視化したものとして有名なものが「アンゾフの成長マトリクス」です。
フレームワークを参考に当社グループでも利用している「事業多角化のマトリクス」をご紹介します。
事業多角化のマトリクス
引用:山地章夫.『新規事業と多角化経営』.クロスメディア・パブリッシング.2021年6月25日
縦軸を「技術(ノウハウ)」、横軸を「市場(顧客)」として、既存の事業(現在の市場や顧客)を深掘り発展させるか、新規に開拓・開発するかという観点で4つの方向性を示しています。
- 左上:市場浸透作戦(既存製品・サービスを既存の市場で発展させる)
- 左下:商品開発戦略での多角化(新規製品・サービスを既存の市場で売り出す)
- 右上:市場開拓戦略での多角化(既存製品・サービスを新規の市場で展開する)
- 右下:異業種進出戦略での多角化(新規製品・サービスを新規の市場で展開する)
異業種進出戦略での多角化はなかなかハードルが高く、FC加盟や他社からノウハウを買う、あるいはM&Aによって新しい技術などを取り入れるといったことを検討しないと難しい領域です。
今ある経営資源を生かすのなら、「異業種進出戦略での多角化」以外の3領域のどこかで自社の強みを生かせるところを探っていくのが発想しやすい方向性です。
ちなみに、「異業種進出戦略での多角化」以外の3領域の方向へ多角化しても、その事業はいずれ既存事業となり、市場浸透作戦である左上の位置に戻ります。そうしたらまた、その位置から商品開発、市場開拓、異業種進出へと新規事業の開発を繰り返していくのです。
新規事業発想 3大ポイントとZONE
また、当グループでは以下のような図でさらに具体的にポイントを絞っています。
「新事業発想 3大ポイントとZONE」の図を解説しますと、「ロマン」「強み」「ソロバン」の3つが重なり合うところを、自社のポテンシャルのすべてを発揮して新規事業に取り組める「The ZONE」と定めました。
事業は実際に動かしてみるまでどうなるかわからない部分もありますが、少なくとも新規事業発想の段階で3つのポイントのどれかが欠けているようでは明るい未来は見えません。
例えば、自社の強みを発見するための5つの質問を設定してみると良いでしょう。
- 「顧客はなぜ我が社から買うのか?」
- 「我が社から買わないのはなぜか?」
- 「圧倒的な強みがあるとすればそれは何か?」
- 「強みなのに気付いていないことがあるとすれば、それは何か?」
- 「強みだと思うけれど、勘違いかもしれないものは何か?」
※4「強みなのに気付いていないことがあるとすれば、それは何か?」はほかの人に聞かなければわからないので、事前に顧客や取引先にアンケートを取るなどの準備が必要です。
それぞれのポイントを押さえた上でどのようなアイデアが出せるかと考えていくと、自社にぴったりの新規事業が見つかるはずです。
これらのフレームワークでもアイデアが浮かばないなら、実際に行動・体験してみることがおすすめです。
詳しくは「新規事業が思いつかない時の発想法。人脈を広げてアイデアに繋げる」をご参照ください。
新規事業を決断するにあたって具体的なポイントとは?
新規事業のアイデアがある程度固まったら、いま一度考えていただきたいことがいくつかあります。
当グループでは「新規事業決断のポイント」として以下の10項目を掲げています。
- その事業は誰を幸せにするのか?(社会性・市場性)
- その事業は儲かるのか?(規模感、収益性、利益率、競合度合)
- 自社のどの強みが使えるか?(強みを認識しておく)
- 自分が好きになれるビジネスか、ワクワクするか?(情熱)
- 他社の参入障壁がある程度高いか?(低い場合はスピードを重視)
- 責任者が確保できるか、スタッフが採用しやすいか?
- 地盤がある本拠地以外の他地域展開は慎重に
- 経営計画をしっかり作成する(投資回収期間、ダウンサイドも)
- 不成功の場合、やめる時の損害見積もり(迷惑・手間の見積もりも)
- 幹部の賛同が得られるか
それぞれ詳しく解説していきます。
①その事業は誰を幸せにするのか?(社会性・市場性)
新規事業は「課題解決のために行うもの」と考えています。
「収益を上げていきたい」というような社内の課題ももちろんありますが、地域や社会の課題を解決する役割もあるということを意識してください。
そもそも顧客ニーズのない事業は地域にも社会にも受け入れられません。
誰の、あるいは何の、どんな不満や問題を解決できるかというところが出発点となります。
②その事業は儲かるのか?(規模感、収益性、利益率、競合度合)
企業として取り組む事業である以上、利益をしっかり出さないといけません。
前項でご紹介した「新規事業発想 3大ポイントとZONE」の図では「ソロバン」のところですね。
設計した価格で買っていただけるのか、きちんと経費を回収した上で利益が出せるか、次の投資に回せるか。
顧客満足だけを得るのであれば無料で提供すれば喜んでいただけますが、あくまでもビジネスです。
その意味でも、対価としていただくものに見合ったサービス・商品を提供しなければならないという点は心しておくべきです。
また、その事業が将来どのくらいの利益を生むか、どう育っていくかというところまで構想を広げる感覚も重要だと思います。
ニーズはあるけれど市場が狭い、いわゆるニッチすぎる商売であれば、会社の規模にもよりますが、成長性という観点からはあまり多くを望めません。
年商10億の会社であれば、新規事業で将来的に1億、5億といった売り上げを得たいと考えるでしょうけれど、年商1,000億以上の会社では将来的に1億程度の売り上げしか期待できないのであれば、果たして取り組むかどうか。
こういったこともしっかり考えた上で着手していただきたいです。
③自社のどの強みが使えるか?(強みを認識しておく)
新規事業に着手するにあたっては、自社の強みを知り、それらを活用することが成功のカギとなります。
前項の「新規事業発想 3大ポイントとZONE」の図で「強み」のところに記載したように、自社で持っているあらゆる経営資源の何を活用できるか考えてみましょう。
強みが活用できるということは勝つ確率が上がるということです。
逆に言えば、強みがまったく活用できない事業領域はかなり博打に近いものになってしまうので、そこへ進出したいのなら他社からノウハウを買う、FCに加盟するといった方法もあります。
しかし、一番の強みはやはり既存事業。
現在会社が続いているということは、既存事業に必ず何かしらの魅力や強みがあるからです。
そうでなければ、すでに市場から消え去っているでしょう。
既存事業をそのほかの強みと組み合わせて発展させることで、相乗効果を狙うという方法がもっとも効果的です。
現在、当グループのロゴには「やりたいことをやるべきことに」というコピーを入れていますが、意味合いとしては「やりたいことやアイデアがいっぱいあっても、強みを生かせるか、市場の課題を解決するものか、収益性が伴っているか、といったことすべてがそろったところが『やるべきこと』になる」ということ。
やりたいからって何でもやれば良いという考え方ではないのです。
ヤマチユナイテッドの新規事業の成功事例も、ぜひご参考ください。
新規事業の立ち上げ成功例。ある出会いから生まれたinZONE事業の事例
新規事業の成功事例。経営者の情熱から誕生した「きたえるーむ」
④自分が好きになれるビジネスか、ワクワクするか?(情熱)
これは「新規事業発想 3大ポイントとZONE」の図の「ロマン」に当たる部分。
そもそも自分が好きになれるビジネス、やりたいと思っているビジネスであるかどうか。
ワクワクするとか、使命感を抱いているとか、世の中に提供し続けるべき製品・サービスだと強く感じているといったこともポイントです。
こういう気持ちがないと、利益がなかなか出なくて苦戦するような場面で「もうひと頑張り」がきかないと思うのです。
情熱があれば物事はうまくいきやすいし、苦労したとしても乗り越えられる可能性が高い。
情熱なしに「儲かりそう」「今流行っているから」といった理由だけで新規事業を始めるのはおすすめしません。
ここまでの4項目が特に重要なポイントです。
当グループではこのほかに6項目を設定し、全部で10項目を新規事業の決断のポイントとしています。
⑤他社の参入障壁がある程度高いか?(低い場合はスピードを重視)
自社が入りやすい事業は他社にとっても入りやすい事業となり、競合が激しくなる可能性があります。
その場合は事業展開のスピード感が大事。
逆に参入障壁が高い場合、成功率自体は下がるかもしれませんが、他社が入りにくいブルーオーシャンとなり得るかもしれません。
⑥責任者が確保できるか、スタッフが採用しやすいか?
責任者として有資格者が必要なのに人材が見つけにくいというような事業は、運営に苦労する場合があります。
⑦地盤がある本拠地以外の他地域展開は慎重に
当グループには住宅販売の会社がありますが、例えば急に道外で事業展開しようと決めても、現地の取引業者さんなどと良い関係を築くまでにはとても時間がかかります。
実績がないので、最初の取引に苦労するのです。
本拠地以外の他地域展開を考える場合は事前の準備も含めて慎重に検討しましょう。
⑧経営計画をしっかり作成する(投資回収期間、ダウンサイドも)
投資回収のシミュレーションをしっかり行っておきましょう。
新規事業はうまくいく前提で経営計画を立ててしまいがちですが、売り上げ2割減、3割減といったダウンサイドも含めて、松・竹・梅の3段階の計画を用意したほうが良いと思います。
「投資回収計画と収支計画は違う?事業を成功に導くポイントとは」も、あわせてご覧ください。
⑨不成功の場合、やめる時の損害見積もり(迷惑・手間の見積もりも)
新規事業がうまくいかないとなれば、撤退の決断も必要です。
撤退することになったら「どれほどの損害が出るのか」といった金銭的なこと以外にも、自社のイメージダウン、取引先やお客様などどこにどのような迷惑をかけてしまうのかといったことも考えておくべきでしょう。
再び住宅販売を例に挙げると、家を購入されたオーナー様のアフターフォローをどうするかというところが大きな問題になります。
撤退後も自社が他地域から出向くのか、でなければその後も長期的に対応してくれる地元の業者さんを確保できるのか。
不動産を賃貸しながら出店していく事業であれば撤退したら空きになりますが、契約期間に満たなければ違約金を払って解約するのか、もしくはまた別な事業で再利用するのか。
考え始めたらけっこう細かくなるのですが、そこまで算段しておかないと多方面に迷惑がかかってしまいます。
⑩幹部の賛同が得られるか
経営者が急に「よし、新規事業をやろう」と言いだしたけれど幹部にとっては青天のへきれき。
こういうケースが意外とあるようです。
幹部が前向きに新規事業を考えられるような雰囲気づくりや経営者との意思統一ができていないと、そもそもうまくいきません。
事業ネタが見つかったり情報が入ってきたりした時に社長一人で決断してしまうのではなく、「どう思う?」と相談したり「シミュレーションしてみよう」と持ちかけたりして、日頃からコミュニケーションを密にして、幹部を巻き込んでいくことも重要です。
新規事業の準備の進め方は別のコラムでもご紹介していますのでご参考ください。
新規事業の準備をステップごとに解説!事業多角化の成功条件とは?
新規事業を決断するタイミングとは?
新規事業は会社を成長させるために行うものですから、売り上げの伸びが緩やかになってくる成熟期は、新規事業の決断のタイミングとして特に意識していただきたいです。
既存事業のテコ入れが第一義ではありますが、そこに限界があるのであれば、新規事業をどんどん足していく、そうすることで既存事業が伸びるという効果にもつながります。
新規事業が既存事業とまったく関係ないものだとこの相乗効果は出ませんから、やはり既存事業に関連した領域で考えることで、どちらの事業もお互いに成長できる可能性が生まれます。
決断のタイミングとしては、既存事業が振るわず盛り返す見込みもないために追い込まれているというケースも考えられますね。
あるいは法律が変わった、コロナ禍のような危機的状況に直面したなどといった外圧により、決断せざるを得なくなった場合もあります。
いずれにしても体力ゼロに近い状態で新規事業を立ち上げるのは非常に困難ですから、そうなる前に決断すべきです。
コロナ禍では、事業転換をしなければならなくなった企業が相当数あるといわれています。
それでなくても物価高やAIの進化をはじめ、今、そしてこれからの時代の変化を考えると既存事業一本でやっていくよりも、事業の柱が何本もあった方が良い。
仮に既存事業がダメになったとしても新規事業が会社を支えてくれるというように、軸足を増やして備えておくことは、リスクヘッジの意味でも、今こそ新規事業や多角化を検討するのに良いタイミングではないかと思っています。事業の柱は最低でも3本は欲しいところですね。
新規事業のアイデア発想法を知り、決断するタイミングも意識しよう
新規事業に着手することは、企業のさらなる成長のために必須のプロセスです。
かといって闇雲に新しいことをすれば良いというものでもなく、新規あるいは既存の製品・サービスを、新規あるいは既存の市場でどう売るかと考えていく方法が一般的。
これを図示した「アンゾフの成長マトリクス」が有名です。
当グループでは、さらに具体的に新規事業発想のポイントを絞り、「ロマン」「強み」「ソロバン」の3つの要素が重なり合うところを「The ZONE」と定め、自社のポテンシャルを効果的に発揮できる新規事業の条件としています。
また、当グループが「新規事業決断のポイント」とするのは以下の10項目。
- その事業は誰を幸せにするのか?(社会性・市場性)
- その事業は儲かるのか?(規模感、収益性、利益率、競合度合)
- 自社のどの強みが使えるか?(強みを認識しておく)
- 自分が好きになれるビジネスか、ワクワクするか?(情熱)
- 他社の参入障壁がある程度高いか?(低い場合はスピードを重視)
- 責任者が確保できるか、スタッフが採用しやすいか?
- 地盤がある本拠地以外の他地域展開は慎重に
- 経営計画をしっかり作成する(投資回収期間、ダウンサイドも)
- 不成功の場合、やめる時の損害見積もり(迷惑・手間の見積もりも)
- 幹部の賛同が得られるか
新規事業を決断するタイミングは、業績の伸びが緩やかになってくる成熟期を意識すると良いでしょう。
ほかにも、売り上げ不振や社会情勢の変化などで新規事業をやらざるを得ないというケースもありますが、この場合は体力がなくなってからでは遅いので、動けるうちに考えておかないといけません。
加えて当社ではアイデア出しの準備として「自社の強みを知る5つの質問ワークシート」「経営資源点検シート」「多角化ワーク質問集」を導入しています。
当グループ主催の「連邦・多角化経営実践塾」でも教材として取り入れており、受講企業の皆さんに記入してもらってアイデア出しに活用いただいています。
当グループでは「連邦・多角化経営実践塾」をはじめ、各種セミナーを用意して経営幹部の皆様をサポートできればと考えておりますので、ご興味があればホームページもチェックしてみてください。
SHARE! この記事を共有する
Authorこの記事の著者
株式会社ヤマチマネジメント|取締役 |グループ執行役員
石崎 貴秀
1996年入社。営業課から国際課を経て、総務部チームリーダーへ。その後グループ経営推進会議事務局にて経験を積み、2009年(株)ヤマチマネジメントを設立、移籍。グループ管理本部の統括マネージャーとして采配を振るう。2017年(株)ヤマチマネジメント取締役就任。
br>
「連邦・多角化経営実践塾」の開塾にも携わり、2014年以降、第1期~現在までシステム経営のメイン講師として活躍。
入塾した企業約70社にシステム経営を指導してきた。現在はシステム経営のコンサルティングも担当。