投資回収計画と収支計画は違う?事業を成功に導くポイントとは
多角化・新規事業
こんにちは、石崎です。
経営の多角化を目指すための新規事業開発。
アイデアや市場開拓、綿密なリサーチなど、考えなければいけないことはたくさんありますよね。
どんなに斬新で顧客に喜ばれる事業だとしても、利益を生むための計画がお粗末では企業として、事業としての健全性を図ることはできません。
資金の回収、ひいては利益獲得のためにどのような点に着目したらよいのでしょうか?
今回は、事業の投資回収計画についてのお話しです。
投資回収計画と収支計画の違いや、投資回収計画のポイントについて解説していきます。
目次
投資回収計画は収支計画と違う?
はじめに、「投資回収計画」と「収支計画」の違いについて触れておきましょう。
どちらも、事業の収支を計算し計画立てたり計画書を作成したりするわけですが、単に「収支計画」といえば通常の損益計画を指します。
では「投資回収計画」はどのような損益計画を指すかというと、新規事業開発の場合です。
事業を新しく始める時には「イニシャルコスト(初期投資)」が発生します。
まずはイニシャルコストを回収し、プラスマイナスゼロの状態から利益を上げていこうと組み立てていくのが「投資回収計画」です。
投資回収計画が新規事業開発で重要なワケ
では、新規事業開発において、投資回収計画はどのような重要性をもつのでしょうか。
わかりやすい例として、不動産投資でイメージしてみましょう。
アパートを1棟買ったとします。
「そのアパートの購入金額はいくらで、そこから得られる収入はいくらを見込んでいて、何年で購入金額分を回収できるか。そしてその先どれくらいの利益が出そうか」という話です。
単純に物件の購入金額と12ヶ月分の家賃を秤にかけて、表面利回り(グロス利回り)だけで考えるわけにはいきません。
この場合収入となる家賃はあくまでも粗利益で、減価償却費をプラスすることはできますが「管理費、管理外注費、水道光熱費、メンテナンス維持費」といった経費をマイナスし、実質利回り(ネット利回り)で見るのです。
さらに、実質利回りだけではなく、キャッシュフローを試算して、お金が回るか回らないかというところにも気を配る必要があります。
融資を受けて物件を買ったとするならば、返済をそのキャッシュフローでまかなえるのかどうかまでチェックしていきます。
もしキャッシュフローより返済額が多ければ会社が黒字倒産することもありますし、ギリギリ間に合うように見えても余裕がなければ恐ろしくて投資なんかできません。
新規事業も同じです。
失敗した時に屋台骨を揺るがすような事業であれば手を出すわけにいきませんよね。
だからこそ、最初に投資回収計画をしっかり立てることが、その事業が成り立つかどうかを見極めるための重要な判断材料として重要になるわけです。
投資回収計画を立てる時にチェックしたい5つのポイント
事業開発を成功に導くために、投資回収計画はどのようなポイントをチェックすればよいのでしょうか。
今回は注意したいことなども含めた、5つのポイントについて確認していきましょう。
1・松・竹・梅と少なくとも3パターンの計画を立てる
先ほどの不動産の例で収入を考えると「満室の場合」「7割入居の場合」「5割しか入居していない場合」で、それぞれ金額が異なります。
新規事業も同様で「理想形のアップサイド」「それなりの現実ライン」「予想を下回るダウンサイド」と、少なくとも3つのパターンを考えた上で計画を立てるべきです。
同時に、それぞれに対する経費計画予算も細かく試算する必要があります。
アップサイドとダウンサイドでは使う経費の額も変わってきますし、後々「ここで経費が想定外にかかってしまった」というのが結構よくあるからです。
そして初期投資の額に対して何年で回収できるか考えるのですが、中小企業の新規事業であれば「長くても5年、あるいは3年、場合によっては1年で回収したい」というスピード勝負を検討するものもあるかもしれません。
経営実践塾の受講者から「いくらまで投資できるか」という質問を受けたことがあります。
当然、各企業の財務とどこまで投資したいかにもよるので一概には言えません。
ただ、失敗して撤退する時を想定しておきましょう。
そのためのコストや風評といったさまざまな影響を考えた上で行動し、既存の事業が揺るがない範囲内で、かつ財務的に窮地に立たされないレベルならいいのかなと思います。
2・損益分岐ラインを明確にしておく
初期投資回収までの年数の決定にも関わりますが、マイナスの場合の想定も必須です。
その事業で赤字が出る可能性はあるか、あるとしたらどこまで赤字を出せるのか、撤退の基準はどこか、そこまで考えておきましょう。
やはり経営実践塾で撤退基準についての質問もありました。
これも一つの例として、当社なら3年連続未達成であれば撤退の検討対象になります。
達成の度合いにもよるのですが、少なくとも3年間赤字となると議論のテーブルにのることになります。
少なくとも年1回は事業の見直しをチェックする機会を設けましょう。
初めから事業計画に「毎年◯月に事業の存続について経営会議で協議することとする」などと落とし込んでおくと間違いないです。
3・第三者的なチェックを入れて「魔法」にかからない
投資回収計画は現場サイドで立てるべきと考えていますが、どうしても現場の人間は事業がうまくいく前提で組みがちです。
私たちは「魔法にかかる」って言うんですが、その場にいるとつい「これいけるんじゃないか」と盲目的に思ってしまうものなんです。
ですからそのまま進んでしまわないように、第三者がチェックするようにしておきましょう。
その役目は管理部門や、別な部署の事業部長に任せるといいと思います。
夢見ることも大事なのですけれど、損益分岐ラインの設定と同様、リスクを先読みして対応策を考えておくことも必要です。
4・自社の物差しに合った収益性・発展性を見込めるか
会社の規模にもよりますが、当社の場合は「一つの事業で営業利益が1億円を超える見込みがある」というところが収益性の目安です。
また、既存事業よりも収益性が上がるか、発展性はあるかというところも判断基準となります。
ですから、良い新規事業を1人で立ち上げて、必ず年間50万円の利益が出るとしても当社の規模感でやるかといったらやらないでしょう。
ミッション・ビジョンがしっかりあって、その上でそれがやりたいことなのか、そういった目線の高さも計画をチェックする際のポイントとなります。
5・月次で経費を細かく計上する
投資回収計画を立てる上で抜けがちなのが「人件費の上昇」です。
人数分の給与を計上して組み込んではいるのですが、長く勤めれば将来的に昇給していきますから、そこをどう考えるかというところです。
昇給したからといって、その人をクビにして若い人を入れるわけにはいきません。
資金面とはちょっと別ですが、人の問題でいうと採用のしやすさ、欠員補充しやすい事業であるかという点も見落とせません。
そういう意味では1人や2人で回す事業では危険なので、少なくともチームが組める3人体制、4人体制で運営していけるような事業計画の方がいいこともあります。
また、事業にもよりますが、最初に始めたのと同じ形でずっといくというケースは少ないです。
途中でリニューアルをかけるとか、ブラッシュアップするとか、設備投資が必要になるとか、その時になって「想定外」となりやすい事態がしばしば発生するからです。
ですので一定期間ごとに「リニューアル予算」を組み込んでおくのが懸命でしょう。
投資回収計画はあらゆるリスクを想定しながら現実的に
新規事業を始める時は前年の実績がなく比較のしようもないので、経営コンサルタントに相談したり、一般的な情報を基にしたりして計画を立てると思いますが、そのあたりの精度も見極めが大事です。
だからこそ、起こりうることすべてを想定した綿密な「投資回収計画」が必要なのです。
目線は高く、一方で思い通りにならない場合のダウンサイドも想定しながら、現実的な中長期計画を立てましょう。
ちなみに、実際の事業計画は「アッパーサイドの松プラン」で進めていくけれども、経営幹部層では「ダウンサイドの梅プラン」を見てリスクに備えるというように使い分けることも可能です。
現在は低金利で銀行も融資に積極的なので、いい事業計画を作れば意外とスムーズに借り入れできる状況です。
新規事業に取組みやすい環境ではないかと思います。
新しいチャレンジはワクワクするものですし、積極的な姿勢が社内に良い空気をもたらすかもしれません。
正しい経営判断をする為、また事業の成功確率を上げる為にも、事業投資回収計画をしっかり、シビアに作成しましょう。
資金繰りを無視してしまうケースも意外とありますから、キャッシュフローのチェックは怠らないようにしてください。
ヤマチユナイテッドでは各種セミナーや講座を随時開催しています。
実践的な経営のヒントをお話しますので、興味を持った方はぜひ参加してみてください。
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Authorこの記事の著者
株式会社ヤマチマネジメント|取締役 |グループ執行役員
石崎 貴秀
1996年入社。営業課から国際課を経て、総務部チームリーダーへ。その後グループ経営推進会議事務局にて経験を積み、2009年(株)ヤマチマネジメントを設立、移籍。グループ管理本部の統括マネージャーとして采配を振るう。2017年(株)ヤマチマネジメント取締役就任。
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「連邦・多角化経営実践塾」の開塾にも携わり、2014年以降、第1期~現在までシステム経営のメイン講師として活躍。
入塾した企業約70社にシステム経営を指導してきた。現在はシステム経営のコンサルティングも担当。