投資回収計画とは?収支計画との違いや計画を立てる際のポイントも
多角化・新規事業

こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。
経営の多角化を目指すための新規事業開発。
アイデアや市場開拓、綿密なリサーチなど、考えなければいけないことはたくさんありますよね。
どんなに斬新で顧客に喜ばれる事業だとしても、利益を生むための計画がお粗末では企業として、事業としての健全性を図ることはできません。
資金の回収、ひいては利益獲得のためにどのような点に着目したら良いのでしょうか?
今回は、事業の投資回収計画についてのお話しです。
収支計画との違いや、投資回収計画が新規事業開発で重要な理由、投資回収計画を立てるポイントなどについて解説していきます。
目次
- 投資回収計画とは?収支計画との違いも確認
- 投資回収計画が新規事業開発で重要な理由
- 設備投資の採算性の評価方法も確認
- 投資回収計画を立てるときにチェックしたい5つのポイント
- 投資回収計画は企業が成長する上で重要な計画!
投資回収計画とは?収支計画との違いも確認
投資回収計画とは、企業や個人が行なった投資が、どの程度の期間で回収できるかを示す計画のことをいいます。
投資対象を分析し、投資した資金をどのタイミングで回収できるか、またその後の利益がどのように得られるかなどを予測して計画をします。
似た言葉で「収支計画」があります。
投資回収計画も収支計画も、事業の収支を計算して計画を立てたり計画書を作成したりするわけですが、単に「収支計画」といえば通常の損益計画を指します。
では、投資回収計画はどのような損益計画を指すかというと、新規事業開発の場合です。
事業を新しく始める時には「イニシャルコスト(初期投資)」が発生します。
まずはイニシャルコストを回収し、プラスマイナスゼロの状態から利益を上げていこうと組み立てていくのが投資回収計画です。
投資回収期間の目安は企業の規模や資本力などによって異なるため一概には言えませんが、一般的には2年以内が望ましいとされており、経営体力の消耗を防ぐには1年以内を目指すのが良いといわれています。
なお、投資回収計画や収支計画のほかに、事業計画も企業経営では重要な計画の一つです。
詳しくは下記コラムでご紹介していますので、ぜひご覧ください。
投資回収計画が新規事業開発で重要な理由
では、新規事業開発において、投資回収計画はどのような重要性をもつのでしょうか。
投資回収計画が重要な理由は、企業の財務健全性や成長戦略、リスク管理に直接関わるからです。
投資回収期間が長引くと、資金を効率的に活用できず赤字に陥り、休業や廃業のリスクが高まります。
投資回収がメインになってしまい、新しいサービスや人材に資金を投入することも難しくなるでしょう。
わかりやすい例として、不動産投資をイメージしてみましょう。
アパートを1棟買ったとします。
「そのアパートの購入金額はいくらで、そこから得られる収入はいくらを見込んでいて、何年で購入金額分を回収できるか。そしてその先どれくらいの利益が出そうか」という話です。
単純に物件の購入金額と12カ月分の家賃をはかりにかけて、表面利回り(グロス利回り)だけで考えるわけにはいきません。
この場合、収入となる家賃はあくまでも粗利益で、減価償却費をプラスすることはできます。
そして、「管理費、管理外注費、水道光熱費、メンテナンス維持費」といった経費をマイナスし、実質利回り(ネット利回り)で見るのです。
さらに、実質利回りだけではなく、キャッシュフローを試算して、お金が回るか回らないかというところにも気を配る必要があります。
融資を受けて物件を買ったとするならば、返済をそのキャッシュフローでまかなえるのかどうかまでチェックしていきます。
もしキャッシュフローより返済額が多ければ会社が黒字倒産することもありますし、ギリギリ間に合うように見えても余裕がなければ恐ろしくて投資なんかできません。
新規事業も同じです。
失敗したときに屋台骨を揺るがすような事業であれば、手を出すわけにいきませんよね。
だからこそ、最初に投資回収計画をしっかり立てることが、その事業が成り立つかどうかを見極めるための重要な判断材料として重要になるわけです。
設備投資の採算性の評価方法も確認
企業が業務を効率化するなどして成長を続けるには、設備に対する投資が必要不可欠だといえます。
設備投資がどれだけの期間で投資額を回収できるかを計画するためには、設備投資の採算性をしっかり評価することが重要なのです。
設備投資の採算性の評価方法には、主に次の4つがあります。
- 回収期間法
- 正味現在価値(NPV)法
- 内部利益率(IRR)法
- 投資利益率(ROI)法
それぞれの評価方法について、計算式とともにご紹介します。
回収期間法
投資にかかった初期費用をどれくらいの期間で回収できるかを計算する方法です。
<計算方法>
回収期間=設備投資額÷各期のキャッシュフロー
正味現在価値(NPV)法
投資によって得られる将来のキャッシュフローを現在価値で割引き、投資によって得られる価値を算出する方法です。
<計算方法>
- 現在価値=将来受け取る金額÷(1+利率・割引率)^n
- 正味現在価値=現在価値-投資額
※n=年数
内部利益率(IRR)法
投資の採算性を評価するために、投資から得られるキャッシュフローの現在価値の合計が、投資総額と等しくなる割引率を計算する方法です。
<計算方法>
- 将来価値=現在価値✕(1+r)^n ※r=年利、n=年数
- 現在価値=将来価値÷(1+r)^n ※r=割引率、n=年数
投資利益率(ROI)法
投資によって得られる利益を投資額で割る方法で、どれだけの利益が得られたかを算出します。
<計算方法>
投資利益率(%)=利益金額÷投資金額×100
なお、経営幹部は会社経営を進めるにあたって数字に強くあるべきです。
詳しくは「経営幹部が会社の数字に強くなるには?効果的な教育方法と環境づくり」でご紹介していますので、あわせてご覧ください。
投資回収計画を立てるときにチェックしたい5つのポイント
事業開発を成功に導くためには、投資回収計画はどのようなポイントをチェックすれば良いのでしょうか。
投資回収計画を立てるときに注意したいことなども含めた、5つのポイントについて確認していきましょう。
①松・竹・梅と少なくとも3パターンの計画を立てる
不動産投資で得られる収入の例で考えると「満室の場合」「7割入居の場合」「5割しか入居していない場合」で、それぞれ金額が異なります。
新規事業も同様で「理想形のアップサイド」「それなりの現実ライン」「予想を下回るダウンサイド」のように、松・竹・梅の少なくとも3つのパターンを考えた上で計画を立てるべきです。
同時に、それぞれに対する経費計画予算も細かく試算する必要があります。
アップサイドとダウンサイドでは使う経費の額も変わってきますし、後々「ここで経費が想定外にかかってしまった」というのが結構よくあるからです。
そして、初期投資の額に対して何年で回収できるか考えます。
中小企業の新規事業であれば「長くても5年、あるいは3年、場合によっては1年で回収したい」というスピード勝負を検討する場合もあるかもしれません。
連邦・多角化経営実践塾の受講者から「いくらまで投資できるか」という質問を受けたことがあります。
当然、各企業の財務とどこまで投資したいのかにもよるので、一概には言えません。
ただ、失敗して撤退するときを想定しておきましょう。
そのためのコストや風評といったさまざまな影響を考えた上で行動し、既存の事業が揺るがない範囲内で、かつ財務的に窮地に立たされないレベルなら良いのかなと思います。
②損益分岐ラインを明確にしておく
初期投資回収までの年数の決定にも関わりますが、マイナスの場合の想定も必須です。
「その事業で赤字が出る可能性はあるか」「あるとしたらどこまで赤字を出せるのか」「撤退の基準はどこか」と、そこまで考えておきましょう。
連邦・多角化経営実践塾の受講生から撤退基準についての質問もありましたが、当社では3年連続未達成であれば撤退の検討対象になります。
達成の度合いにもよるのですが、少なくとも3年間赤字となると議論のテーブルにのることになります。
少なくとも年1回は事業の見直しをチェックする機会を設けましょう。
初めから事業計画に「毎年◯月に事業の存続について経営会議で協議することとする」などと落とし込んでおくと間違いないです。
新規事業の撤退基準について詳しくは、こちらのコラムもご確認ください。
企業の成長を促進させるための新規事業、うまくいかなかった時の撤退基準、判断軸とは?
③第三者的なチェックを入れて「魔法」にかからない
投資回収計画は現場サイドで立てるべきと考えていますが、どうしても現場の人間は事業がうまくいく前提で組みがちです。
この現象のことを私たちは「魔法にかかる」と言うのですが、その場にいるとつい「これいけるんじゃないか」と盲目的に思ってしまうものなんです。
ですからそのまま進んでしまわないように、第三者がチェックするようにしておきましょう。
その役目は管理部門や、別の部署の事業部長に任せると良いと思います。
夢見ることも大事ですが、損益分岐ラインの設定と同様、リスクを先読みして対応策を考えておくことも必要です。
④自社の物差しに合った収益性・発展性を見込めるか
会社の規模にもよりますが、当社の場合は「一つの事業で営業利益が1億円を超える見込みがある」というところが収益性の目安です。
また、既存事業よりも収益性が上がるか、発展性はあるかというところも判断基準となります。
ですから、良い新規事業を1人で立ち上げて、必ず年間50万円の利益が出るとしても、当社の規模感でやるかといったらやらないでしょう。
ミッション・ビジョンがしっかりあって、その上でそれがやりたいことなのか、そういった目線の高さも計画をチェックする際のポイントとなります。
⑤月次で経費を細かく計上する
投資回収計画を立てる上で抜けがちなのが「人件費の上昇」です。
人数分の給与を計上して組み込んではいるのですが、長く勤めれば将来的に昇給していきますから、そこをどう考えるかというところです。
昇給したからといって、その人をクビにして若い人を入れるわけにはいきません。
資金面とはちょっと別ですが、人の問題でいうと採用のしやすさ、欠員補充しやすい事業であるかという点も見落とせません。
そういう意味では1人や2人で回す事業では危険なので、少なくともチームが組める3人体制、4人体制で運営していけるような事業計画のほうが良いこともあります。
また、事業にもよりますが、最初に始めたのと同じ形でずっといくというケースは少ないです。
途中でリニューアルをかけるとか、ブラッシュアップするとか、設備投資が必要になるとか、そのときになって「想定外」となりやすい事態がしばしば発生するからです。
ですので、一定期間ごとに「リニューアル予算」を組み込んでおくのが懸命でしょう。
投資回収計画は企業が成長する上で重要な計画!
投資回収計画は、企業や個人が投資した資金をどのくらいの期間で回収できるかを示す計画です。
新規事業開発では、初期投資を回収し、その後の利益を得るためにこの計画を立てます。
投資回収期間の目安は企業の規模や資本力などによっても異なりますので、一概には言えません。
しかし、失敗して撤退するときのことを想定しておくことをおすすめします。
投資回収計画は、企業の財務健全性や成長戦略、リスク管理に直結しており、回収が遅れると資金繰りに悪影響を与え、赤字リスクを高めます。
投資回収計画を立てる際には、設備投資の採算性を評価するために「回収期間法」「NPV法」「IRR法」などを活用し、現実的な予測を行います。
また、計画には少なくとも3つのシナリオを立て、損益分岐点やリスク管理を明確にし、第三者によるチェックを取り入れることが重要です。
さらに、事業の収益性や発展性、自社の規模に合った計画を立てることも成功の鍵となるでしょう。
ヤマチユナイテッドでは、企業経営に役立つ企業視察や経営セミナー、ワークショップなどのイベントを随時開催していますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
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Authorこの記事の著者

株式会社ヤマチマネジメント|取締役 |グループ執行役員
石崎 貴秀
1996年入社。営業課から国際課を経て、総務部チームリーダーへ。その後グループ経営推進会議事務局にて経験を積み、2009年(株)ヤマチマネジメントを設立、移籍。グループ管理本部の統括マネージャーとして采配を振るう。2017年(株)ヤマチマネジメント取締役就任。
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「連邦・多角化経営実践塾」の開塾にも携わり、2014年以降、第1期~現在までシステム経営のメイン講師として活躍。
入塾した企業約70社にシステム経営を指導してきた。現在はシステム経営のコンサルティングも担当。