経営層と現場でなぜギャップが生まれる?戦略をやり切るためのポイント
業績管理・経営計画
こんにちは、ヤマチユナイテッドの山崎です。
「経営計画・経営方針・営業戦略をきちんと考えて出しているのに、なかなか業績達成に結びつかない」
当グループで主催している「連邦・多角化経営実践塾」を受講される中小企業のお客様からよく聞く悩みです。
こうした企業の経営層の方々は、私から見ても計画も方針も本当にきちんと立てていらっしゃるのですが、だからこそこういった悩みに陥りやすいのではないかな、と思うんですね。
「え?しっかりした計画、方針、戦略があるのにどうして?」と疑問が湧いた読者の方もいらっしゃるでしょう。
ここを一緒に考えながら、経営層と現場との間に生まれがちなギャップと、戦略・戦術を「やり切る」組織となるために、それらのギャップを埋める方法を紹介していきます。
目次
- 経営層の戦略・戦術に潜む落とし穴
- 経営層と現場の間になぜギャップが生まれる?
- 経営層と現場の間のギャップを埋めて「やり切る」組織へ
- 経営層と現場の間のギャップを埋めた具体例
- 経営層と現場の間のギャップを解消し、自主的に業績を作る組織づくりを
経営層の戦略・戦術に潜む落とし穴
「業績達成に結びつかない」と悩む中小企業の経営層の方々は、しっかり考え抜かれた戦略・戦術を用意して、年間の経営計画もきちんと持っていらっしゃいます。
それなのに業績に反映されていなかったり、戦略・戦術を現場でやり切っているかどうかが不透明だったり...さらに、会議では「できない理由」ばかり出てきてしまうというようなことをよくお聞きします。
実は、こうしてきちんと計画を立てている会社にこそ「落とし穴」があったりします。
きっと、計画を立てた時点で経営層の皆さんの中では達成までのシナリオも道筋もできているんです。
しかし、その後の経過をよく見ていくと、戦略・戦術を立てたものの、それを現場へ下ろしたのみで進捗管理ができていない。
だから結果だけしか管理されていない、現場でどこまでできていて、どこからできていないかというところまで把握されていない...と、こういうことが往々にしてあります。
また、現場に対して「もうちょっと積極的に業績を上げる対策・施策をもって自主的に行動してほしい」と期待をかけているのでしょうが、目線の違いもあってかこれがなかなか通じません。
経営層は会社全体の利益を見て行動していますが、現場では部署間連携ができないことでギスギスしていたり、各々の正義のぶつけ合いみたいなことをしてなかなかうまくいかないこともあったりするものです。
きちんとした経営計画、経営方針を作り、戦略・戦術を練り上げることはとても大切。
ですが、それらが業績に反映されないのなら、計画を立てたことですっかり安心してしまって帳尻が合わないというようなケースも案外多いのではないかなと考えています。
経営層と現場の間になぜギャップが生まれる?
では、経営層と現場の間になぜギャップが生まれるのでしょうか。
現場で働く人の目線に立って、その理由を4つに整理してみました。
ギャップ①現場に下りてきた戦略・戦術立案の背景がわからない
なぜその戦略に至ったのか、それを実行した場合どういう世界観に紐づくのかといったところを現場が理解できないと、「急に上から降ってきた」と唐突な印象が先に立ってしまい、納得して業務に取り組めません。
経営層は「わかるでしょ」と思って現場へ下ろすのでしょうけれど、立案に至るまでいろいろな情報を加味しながら多角的に分析し、さまざまな思考を経て完成させたはず。
そこがわからないと「なぜこの戦略・戦術なのか」が理解できないことによって、現場の行動が遅れてしまうのです。
ギャップ②戦略・戦術を実行すること自体が難しく感じる
方針や戦略が出てくると、たいていの場合、現場は新しいことをしなければいけない、対策を講じなければならないと考えるでしょう。
でも、元々自分たちがやるべきことをさぼっていたわけではないので既存の業務も継続しつつ、新しいことも始めるとなると双方の兼ね合いが難しくなります。
経営層で新旧の業務を整理してから下ろすというのも大変ですからここは現場でやるしかないのですが、下ろした戦略自体、経営層が思っているより難易度が高いとか、抽象的すぎるとか、量が多すぎるとかいうことはよくあります。
業務整理と効率化をするにも現場ではやり切れないということは、経営層にはなかなか伝わりにくいようです。
ギャップ③経営層と現場とでは視座が違う
経営層としては、「会社全体が良くなるように、社員みんなが方針に沿って動いてほしい」と思っていますが、現場の人たちは自分たちが得られる情報の量や質が経営層とは違うこともあり、全体最適でなく部分最適で考えてしまう傾向にあります。
そのせいで、他部署と利害の対立や各々の正義のぶつけ合いみたいなことが起こるケースも。
営業部門と管理部門がギスギスしているとかってよく聞きますよね。
経営層は「本来は車の両輪であるはずなのに、なぜそうなるんだ」と苛立ちを覚えるかもしれませんが、現場の人たちも自分たちの通常業務や顧客を守らなければならないと必死で「なぜそこを全体最適にしなきゃいけないのか」と不満を抱えているのです。
ギャップ④戦略・戦術に基づく行動や実行に対する強制度が低い
「こうして戦略・戦術は示したからやってくれるだろう」と、経営層は現場へ下ろした時点で強制しているつもりになってしまいますが、現場からすると細かく管理されているわけでもないから「結果がよければ良いでしょう」と惰性で日々を過ごしてしまう。
だから例えば月末に向けてエビ反ってしまって、結果的には業績達成もできなかった場合に経営層がチェックすると「やってないじゃないか」とガッカリ。
「業績達成のために必ずやってほしい」という経営層の意志が伝わっておらず、習慣化に至らないのです。
経営層と現場の間のギャップを埋めて「やり切る」組織へ
前項で紹介した、経営層と現場の間に生まれる4つのギャップを埋める方法を具体的に考えていきましょう。
これらを解消すれば「やり切る」組織へと変われるはずです。
対策①戦略・戦術に対する現場側の納得感を調整する
「ギャップ①現場に下りてきた戦略・戦術立案の背景がわからない」の対策方法です。
現場の人たちの心理としては「現場のこともわかってないくせに」ということなんですよね。
であれば、現場の状況を把握した上で出した戦略・戦術であるということが伝わるようにしないといけません。
例えば、うちでは「部門方針書」という書類を各事業部で作ってもらっています。
一番の特徴は、経営層ではなく各事業部のメンバーが話し合いながら作成するということ。
そのため、設定される目標値やそれを達成するための戦術・戦略も現場の状況に沿ったものになりますし、何より自分たちで立案しているため「なぜその数字になるのか」「なぜその戦略・戦術をとるのか」が明確で、現場の人たち自身の取り組む姿勢もまったく変わってきます。
対策②具体的に何をすれば良いかを行動計画に落とし込み、通常業務を効率化する
「ギャップ②戦略・戦術を実行すること自体が難しく感じる」の対策です。
新しい施策に沿うための業務を実行するにあたり、まずは既存の業務に無理や無駄がないか見直します。
やるべきこと、やらなくて良いことがはっきりしたら、業務を型化していきましょう。
型化のコツは、現在個人個人で行っている業務を組織全体で解消できないかという視点で見ること。
例を挙げると、BtoBの営業担当が顧客先に持っていく企画書や提案書を毎回各々で作成したり更新したりするのではなく、作成・更新作業を会社のプロジェクトとして動かすといったこと。
そうすれば作成者によって出来不出来があるということも起こらずスキルを平準化することが可能ですし、一人ひとりが書類作成に割いていた時間を別な業務に充てることもできます。
結果的に新しい施策に対してよりポジティブに取り組むことができるのではないでしょうか。
せっかくチームで働いているのですから、一人で戦わないほうが良いですよね。
やるべきことを行動計画に落とし込むためには、先ほど紹介した部門方針書がまた役立ちます。
例えば、部門方針書で設定した目標値が年間いくらという売上額であれば、月の売上数や予約件数など、最大3項目くらいまでを「KPI(中間指標)」として設定し、月次や週次で達成度を確認しましょう。
このKPIを設定する過程が現状分析と課題抽出の作業と重なりますから、それに基づいて「日々の業務としては何をすれば良いか」と具体的な行動に落とし込むことができます。
KPIについて詳しくは、下記のコラムをご確認ください。
KPI設計のポイントとは?KGIとの関係性と効果的な活用方法も
そのKPI...本当に正しいの? 確かなKPI設定は"真因の特定"にアリ!
対策③経営層と現場との目線を合わせるための仕組みを作る
「ギャップ③経営層と現場とでは視座が違う」を変えるためには、うちで言う「オンライン朝会(あさかい)」のような仕組みが有効です。
週1回、30分間の動画配信を幹部が行い、会社全体の方針やグループ全体の目標値、各事業部のKPIの進捗状況などを発信しています。
全体の話をするにあたって「グループみんなでこの目標値を達成したいから、今厳しい状況にあるここの部署をほかの部署でカバーできるよう、アドオンで頑張ってほしい」というメッセージを伝えることもあります。
また、他部署とギスギスしてしまう際のそもそもの原因は他部署の事情を理解していないことだと思うので、他部署のビジネスモデルや職種、普段どんな仕事をしているかといったことは普段から知っておくべきですね。
その上で、オンライン朝会を通じて業績の進捗や協働できそうな情報なども得られるようにしておけば、現場の人でも会社全体を見る経営層の目線により近くなりますし、情報の質も上がり、量も増えるはず。
他部署との関係も良くなって「うちも厳しいけれど共働して一緒に利益を作っていった方がいいね」という視点で話ができるようになると思います。
対策④週次で進捗管理する体制を構築するための会議設計を行う
「ギャップ④戦略・戦術に基づく行動や実行に対する強制度が低い」を改善するには、シンプルですが、進捗管理体制を強化し、かつ会社会議と接続することで進捗共有を強制化する方法をおすすめします。
会議に出ないということはできませんので、出席したら必ず進捗を発表しなければいけないというアジェンダも設置してしまいましょう。
こうすれば自動的に現場から進捗状況が上がってきて、それが上層部の会議まで伝わります。
体制構築のポイントは、現場からの情報吸い上げがどのくらいのスパンで、どういう流れで上まで伝わるかというところをきちんと見直し、整備すること。
会議数は多いけれど現場の状況は経営層まで上がっていかないという会議設計を行っている会社さん、実は多いんです。
会議でただ数字だけ言って終わるパターンもよくありますが、数字は結果ですから、その手前の行動がうまくいっているかどうかがわからないと、対策は打てません。
現場で戦略を実行したらそれがうまくいっているかどうかが上までちゃんと伝わるよう、かつ、うまくいっていないのであれば経営層が「これじゃないな」と判断して次の手を打てるよう、情報提供がダイレクトに回っていくような会議設計がもっとも重要です。
経営層と現場の間のギャップを埋めた具体例
ヤマチユナイテッドのように多角化している企業では、「他部署、他事業部が何をしているかイマイチよくわからない」とか、社員が数百人にもなれば「意識統一が難しい」ということが起こりがち。
「経営層と現場の人間が互いの顔を見る機会もほとんどない」というようなことも不思議ではありません。
こういったデメリットを解消すべく、当グループでは長年いろいろと工夫してきました。
2023年10月現在、先ほどご紹介した「部門方針書」「業務の型化」「オンライン朝会」「進捗管理体制の会議接続」の4つが連携してとてもうまく機能しています。
社員数が700人を超えて社員一人ひとりの目線合わせを改めてしていかないと...と経営層が考えていたちょうどその頃、2019年末から世界へ広がっていったコロナ禍により、人との接触が制限されたことで社内のコミュニケーションが非常に取りにくくなってしまいました。
会社に集まって朝礼を行うこともできず、それでも「会社の危機である」と伝えたいと考えた幹部の一人が、みずからオンラインコミュニケーションツールである「Teams(Microsoft Teams)」を使ってYouTuberさながらに社内の状況を発信することにしたのが「オンライン朝会」の原点です。
週次で業務の進捗状況を知らせるほか社内MVPを選出したり、経営層が社員に期待することや日頃の感謝が伝えられたりして社員のモチベーションが上がり、営業部門と管理部門の対立も解消されるなどメリットはさまざま。
「経営トップが社内でユーチューバーになったら社内の一体化が進んだ話」もあわせてご覧ください。
業務の進捗状況は「部門方針書」を通じて共有されています。
これも実はコロナ禍の影響で生まれた情報共有ツールです。
例えば、イベントを企画・運営する会社はすべての予定が中止となり売上が立たない時期もあったのですが、厳しい状況にある会社をグループ内で好調な他の会社が頑張ることで、みんなでグループの業績を達成しようと、全社の一体感を高める目的もあって導入したのです。
部門方針書の作成は3カ月に1回ですが、中に記載されているKPIの達成度は週ごとに振り返ることを義務付け、週次で行われる業績検討会議、グループ内にある会社ごと月次で行われる各社経営会議、グループ経営会議、HQ(ヘッドクォーター)会議と上がっていって、フィードバックが下りてきます。
これが「進捗管理体制の会議接続」であり、経営層と現場とのギャップを埋めるのにも一役買っています。
「業務の型化」は属人的な業務を標準化し、業務効率を上げるのに大きな効果を発揮しています。
まずは業務プロセスを見直すこと。
業務の流れに過不足がないか、順番に問題はないか、部署を超えた連携についても思考を巡らせてください。
次に、業務フローの見直しとして、マニュアル作成や動画化など各種ツールを整備することで効率化できないか検討します。
例えば、BtoBの営業職ならアポ取りのためのトークスクリプト、お客様の要望を拾うヒアリングシート、提案書やサンプル一覧、見積書、メールのテンプレートなどをあらかじめ用意しておく。
このとき、経験豊富な営業などハイパフォーマー中心にツール作成に関わってもらうようにすると、経験の浅い新人でもヒアリングシートを使えばお客様の要望を聞き漏らすことがないように、スキルの平準化を図ることができます。
うちの事例だと、多角化しているだけに初訪問の際に会社の説明をしようとするとどこに着目して伝えるかが人によってバラバラになりがち。
ですが、ある事業部では上手に質の高い会社紹介動画を作って、各々が持っているパソコンをお客様のもとへ持参してお見せするという「型化」によって、みんなが同じクオリティ、同じ所要時間で自社を説明できるようになりました。
このほか、お客様によく聞かれることをFAQとしてホームページに掲載しておくのも「型化」の一つです。
自社について説明する際はURLをコピーしてメールに貼り付ければ済みますし、人によって回答が異なるということもなく、クレームがつきにくいのもメリットです。
型化にあたっては「業務生産性」と「再現性」という2つのキーワードに沿って進めていくと良いでしょう。
経営層と現場の間のギャップを解消し、自主的に業績を作る組織づくりを
経営計画や戦略・戦術をしっかり立てている会社にこそ「落とし穴」があると思います。
達成までのシナリオも道筋もできていると安心するあまり、進捗管理ができていないケースが多いからです。
これでは現場の状況もわかりませんし、現場の人たちからしても経営層と同じ目線で働くことが難しいのは当然です。
経営層と現場の間にギャップが生まれる原因と対策として、以下の4つが挙げられます。
ギャップ①現場に下りてきた戦略・戦術の立案の背景がわからない
➡︎対策:戦略・戦術に対する現場側の納得感を調整する
ギャップ②戦略・戦術を実行すること自体が難しく感じる
➡︎対策:具体的に何をすれば良いかを行動計画に落とし込み、通常業務を効率化する
ギャップ③経営層と現場とでは視座が違う
➡︎対策:経営層と現場との目線を合わせるための仕組みを作る
ギャップ④戦略・戦術に基づく行動や実行に対する強制度が低い
➡︎対策:週次で進捗管理する体制を構築するための会議設計を行う
当グループでは「部門方針書」「業務の型化」「オンライン朝会」「進捗管理体制の会議接続」の4つを連携させて、経営層と現場とのギャップを解消し、自主的に業績を作る組織づくりを行っています。
また、「業務の型化」については当グループでもその有効性を大きく実感したため、中小企業経営層向けの集団研修プログラム「KATAKA」として随時開催しております。
ちょっとした仕組みを入れることで経営層と現場のギャップをなくし、自主的に業績を作っていけるような組織にしたいとお考えの方はぜひ参加をご検討ください。
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Authorこの記事の著者
株式会社ヤマチマネジメント|経営支援事業部 |営業推進チームリーダー・人財開発コンサルタント
山﨑 舞
人材総合サービス会社の営業部勤務を経て2018年(株)ヤマチマネジメントへ入社。前職では採用広告サービスの販売営業部で戦略スタッフとして企画・販促・アシスタント業務を担当。その際、元々取引先だったヤマチユナイテッドの社風やミッションに惚れ込み、転職を決意。現在は経営支援事業部で企画・運営を担当しつつ、営業推進チームリーダー兼人財開発コンサルタントとして活動。企業の新卒採用・育成を支援している。