事業の多角化を成功させるポイント。今のままで会社は永続できますか?
多角化・新規事業

成功するかどうか分からない新事業に投資するのは、勇気がいります。
社内の反発があったりして、なかなか踏み出せないという人もいるかもしれません。
ですが、ここは逆に考えてみてください。
「既存の事業だけで、この先、会社が永続できるのか?」
この問いが非常に重要です。
消費者のニーズが目まぐるしく変化する時代、本業がうまくいかなくなったときはどのように対応しますか?
私は事業の多角化こそが最大のリスクヘッジだと考えます。
今回は私のこれまでの経験を交えながら、多角化のメリットと成功のポイントについて説明しましょう。
目次
1.多角化事業のスタートは垂直方向から
私が経営コンサルタント会社のサラリーマンを辞め、父の経営する山地商事に入社したのは28歳のときです。
建材の問屋業で、当時の従業員は30人ほどでした。
建材を商社経由で仕入れて販売店に卸す中間業でしたから、利益は薄いし手形取引で回収が長い。父もこのままでは未来がないと考えていたのでしょう、現金商売ができるホームセンター事業への進出を試み、私を店長に指名しました。
しかし、立地の悪さもあって赤字から脱却できず4年で撤退。私の多角化への挑戦はこのときの失敗をバネにスタートしたのです。
私が自ら取り組んだのは、建材輸入の貿易事業でした。
大学時代にアメリカとカナダを数カ月放浪して、向こうの豊かなライフスタイルに衝撃を受けたので、そうした暮らし方を日本に紹介したいという強い気持ちがありました。
建材の輸入は卸業ですが、他社が扱っていない商品なら、メーカー的ポジションになれます。
そこでポジションチェンジに成功し、さらに翌年にはその建材を用いて、ジョンソンホームズという住宅会社も始めました。
これらは、いずれもアンゾフのいう<垂直型の多角化>です。収益源をいくつか確保しておきたいというのが始まりでした。
2.事業は水平方向の多角化へ
既存事業の川上もしくは川下へ進出する垂直型の多角化に成功して、その後、水平型の多角化にも取り組みます。
ジョンソンホームズの多ブランド化です。
当初こそ2×4のアメリカ輸入住宅にこだわっていましたが、在来工法にくわしいスタッフが加わったこともあって、多ブランド化していく方向に舵を切りました。
同じ住宅販売でも顧客のニーズに合わせて商品のラインナップを増やしていく水平方向の多角化です。
自然素材を多用した「ナチュリエ」、コンパクトサイズでリーズナブルな「COZY」、遊び心のある「アメカジ工務店」など、ブランドが増えるにしたがって、顧客層も厚くなりました。
3.多角化事業は点と点をつないで線になるような戦略が必要
もうひとつ、当社の多角化の大きな特徴はフランチャイズ化です。
20年ほど前、バブル経済の崩壊で北海道拓殖銀行が破綻して、北海道は深刻な建設不況に見舞われたことがありました。
住宅業界が冷え込み、市場が急速に縮小。なかでも高級路線の輸入住宅は全く売れなくなりました。
赤字の事業が増えるなか、かろうじて利益が出ていたのは建材部門です。
住宅部門から建材部門に人を異動させて体制を強化。その間に輸入建材の流通と住宅を建てるノウハウを合体させて住宅フランチャイズ事業を始めようと準備を進めました。
住宅FC「インターデコハウス」をリリースしたのは、たくぎん破綻から3年後の2000年。最初の2年間は先行投資で事業部利益は赤字が続きました。
それでも建材部門の利益で赤字をカバーできたおかげで、徐々に加盟店が広がり、結果、グループ各社の経営はV字回復。市場エリアが全国に大きく広がっただけではなく、FC展開のビジネスモデルを獲得できました。
FC本部運営のノウハウを得たことで、さらに多角化の幅も広がりました。
機能訓練専門デイサービス「きたえるーむ」のFC化です。
介護という畑違いの分野に参入できたのも、企業向けの多角化支援としてFC化できるという算段がついていたからです。
多角化はただ事業の数を増やせばいいというわけではありません。
一見無関係のように見える事業でも、点と点をつないで線になるような戦略が必要。つまり既存の事業になにかしらのメリット、相乗効果を生み出せる事業かどうかが重要なのです。
4.新規事業の多角化を成功させるポイントとは?
では、多角化を成功させるにはどうしたらいいのでしょう。
もちろん絶対に成功するセオリーなどはありません。私もこれまで何度も失敗を繰り返してきました。
私と同じ失敗を繰り返さないためにも、この経験から学んだ教訓をいくつかお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
(1)シナジー効果のない多角化はNG
多角化に期待したいのはシナジー効果です。既存の事業と接点のない多角化は、たとえ新規事業がうまくいったとしても、成長スピードに加速がつきません。
責任者をよそから連れてきて新規事業をまかせきりにしてしまうと、既存事業と協力関係が築けず、シナジー効果は望めません。
だからといって社長が一人で全ての事業をなんとかしようとするのもいけません。次々と出てくる課題に対処するだけで精一杯のモグラ叩き状態。先を見据えて戦略を考える、経営者本来の役割ができなくなってしまいます。
(2)社長の独断専行には注意
新規事業は必ず役員や幹部を巻き込んで進めなくてはなりません。
私も過去に幹部に相談せずに独断で出資し、事業に乗り出したものの、数年で撤退した経験があります。
「社長が趣味でやってるんでしょ」と社員が思ってしまうような事業はうまくいくはずがないのです。
新規事業を成功させるには、社内の協力が欠かせないと肝に銘じてください。
(3)イニシアチブと責任の所在を明確に
経営者仲間と共同出資で新事業を起こしたこともありますが、これもうまくいきませんでした。
たとえば5人の経営者が20%ずつ出資したとしたら、平等な発言権しかないので、なにかを決めるときに話がまとまりづらい。マネジメントが難しいのです。
その場合は誰がイニシアチブをとるのか、株の割合などを含めて前もって決めてからスタートするべきでしょう。
(4)企業理念からはみださない
企業の理念(ミッション)に合致しない事業には手を出してはいけません。ヤマチユナイテッドのミッションは「世の中に、幸せをばらまく」。
100の事業を立ち上げ、100人の事業経営者を創出する「100VISION経営」を通じて、一人でも多くの人を幸せにすることを目標に掲げています。
このビジョンは業種を選びません。BtoBもBtoCも含みます。
多角化を考えるなら、事業分野を狭い範囲に絞らないほうがいいでしょう。
もし古くからある経営理念や社是が窮屈な場合は、それにこだわることなく時代や環境にあったミッションに変えてもいい。社員全員がミッションを理解して同じ方向にむかって頑張っていけるかどうかが重要だと思います。
多角化は、もしかしたら失敗するかもしれませんが、小さな失敗は大きな成功を呼び込む糧となります。教訓を生かし、恐れることなく次なる事業をスタートさせましょう。
多角化が成功すれば、不測の事態で経営環境が大きく変化したとしても、不採算部門から別の部署へ人員を異動させたり、事業を再編成したりとフレキシブルな対応ができます。
大きな樹木はさまざまな場所へと根を張り巡らせ、栄養を蓄えるとともに次の世代の種をまき続けます。
新規事業への挑戦はリスクではなく、なにもしないことこそがリスクだということ、ご理解いただけたなら幸いです。
今回解説した事業多角化の成功のポイントを踏まえたうえで、「新規事業の準備をステップごとに解説!事業多角化の成功条件とは?」もご参考ください。
事業多角化の成功条件や新規事業準備のステップについてもお話しています。
ヤマチユナイテッドではワークショップなどのイベントも随時開催しています。
新規事業への足がかりになるような情報を得たりノウハウを体感できたりすると思いますので、興味を持った方はぜひ参加してみてください。
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Authorこの記事の著者

ヤマチ連邦多角化経営実践塾 塾長
山地 章夫
ヤマチユナイテッド代表。経営を楽しみ、社員620名、50事業・年商160億円の企業グループの舵を取る。本業を中心に事業を次々と立ち上げ、売上げを積み増す「連邦多角化経営」を実践。経営の安定化と人材育成を両立する独自の経営手法が、多くの中小企業経営者の注目を集める。