企業の成長を促進させるための新規事業、うまくいかなかった時の撤退基準、判断軸とは?

多角化・新規事業

石崎 貴秀
石崎 貴秀

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こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。

中小・中堅企業が今後起こり得る様々な変化に対応し、収益性を上げながら組織として柔軟かつしなやかに生き残っていくためには、「新規事業開発による多角化が非常に有効な手段のひとつ」だと私たちは考え、実践しています。

とはいえ、立ち上げた新規事業が百発百中で成功するわけではなく、残念ながら中には縮小や撤退を余儀なくされた事業もありました。

多角化経営においては、「一つやめても、また新しい事業を加えて...」とスクラップ&ビルドを繰り返しながらグループ全体を成長させていくことが必要です。

それでは、新規事業を撤退する場合の「撤退基準」はどのように決断すべきか、その判断軸をお伝えするのが今回のコラムです。

事業の投資と同じく、撤退の判断もとても重要かつ難しい経営判断です。1つの参考になれば幸いです。

目次

  1. なぜ「撤退基準」が新規事業において重要なのか?
  2. 新規事業の撤退判断に必要な3つの基準
  3. 新規事業の撤退を決断するタイミングと実行プロセス
  4. 新規事業の撤退を次の成長へつなげるためのフィードバックと学び
  5. 必勝なき新規事業だからこそ撤退基準が重要!チャレンジを繰り返して成功率を上げよう

なぜ「撤退基準」が新規事業において重要なのか?

そもそも、「これから新しいことを始めよう」「軌道に乗せていこう」というときに、なぜ撤退基準を重要視しなければならないのでしょうか。

ヤマチユナイテッドが過去に新規事業を撤退した事例とあわせてご紹介します。

新規事業に着手する決断をするときから、やめる(撤退する)場合のことを考える

ヤマチユナイテッドでは、「新規事業に着手するかどうか」という時点で、決断のポイントを10項目設定しています。

  1. その事業は誰を幸せにするのか?(社会性・市場性)
  2. その事業は儲かるのか?(規模感、収益性、利益率、競合度合)
  3. 自社のどの強みが使えるか?(強みを認識しておく)
  4. 自分が好きになれるビジネスか、ワクワクするか?(情熱)
  5. 他社の参入障壁がある程度高いか?(低い場合はスピードを重視)
  6. 責任者が確保できるか、スタッフが採用しやすいか?(人材確保の難易度)
  7. 地盤がある本拠地以外の他地域展開は慎重に
  8. 経営計画をしっかり作成する(投資回収期間、ダウンサイドも)
  9. 不成功の場合、やめる時の損害見積もり(迷惑・手間の見積りも)
  10. 幹部の賛同が得られるか

9番目の項目にあるように、うちでは新規事業をやる・やらないの判断基準の一つとして、すでにやめる場合のことを考えています。

新規事業は案外始めやすいけれども、撤退するとなると非常に大変。

お金も手間ももちろんかかりますが、一番気を遣うべきはその商品やサービスを利用するお客様です。

取引中のお客様には迷惑をかけるし、アフターフォローも検討しなければならないですよね。

また、撤退の仕方によっては企業イメージが大きく低下する恐れもあるでしょう。

だからこそ、これから始めようとしている事業が撤退することになった場合、どこにどのような影響があり、どれほどの損害が出るかということを、事前にある程度見積もっておく必要があると思うのです。

ヤマチユナイテッドが新規事業を撤退した事例もご紹介

先述のように、新規事業は百発百中というわけにはいきません。

新規事業にはヒト・モノ・カネといった経営リソースを注ぎ込みますから、それをどこまでやるのか、やれるのかということは、やはりどこかの時点で判断しなければならないでしょう。

ヤマチユナイテッドが過去に新規事業を撤退した事例について、撤退の原因や苦労した部分などもご紹介します。

ヤマチユナイテッドが過去に新規事業を撤退した事例①

事業名は出せないのですが、過去にヤマチユナイテッドが立ち上げたある事業は、社会的な貢献度が高く、ある属性の方々に必要なサービスを適切にお届けできるという点でとても良い事業内容だと思われました。

しかし結論からいえば、この事業は立ち上げから2年も経たないうちに撤退することになりました。

原因を分析してみると、顧客数が思いのほか少なかった、つまり想定より市場規模が小さくニッチな事業であったことが一つ。

そして、売価の設定を思うように上げることができなかったことが一つ。

また、スタッフには特殊な知識や技術が求められたので、採用の難易度が高かったことも足を引っ張りました。

撤退を決めてから苦労したのが、やはりお客様に対するフォローの部分です。

このサービスは継続して利用していただくものだったので、「来月からもう何もできません」とお客様にお伝えするのはなかなか心苦しいものがありました。

結果的に類似のサービスをご紹介するなどして丁寧に事情を説明し、納得いただきながら撤退しなければならなかったということで、マンパワーを含めて消耗しましたし、非常に気も遣いました。

撤退の際に苦労することはこのほかにもまだあります。

この事例のように特殊な知識や技術を持つ人材を集めた場合、グループ内のほかの事業で雇用を継続することができたとしてもマッチしないケースがあり、どうしてもその分野で働きたい人は他社へ移ってしまうでしょう。

ヤマチユナイテッドが過去に新規事業を撤退した事例②

新規事業を撤退する際には、物品の撤収や店舗の退去にも手間や費用がかかりますよね。

地元ならまだしも、地元以外、遠方ならさらに大変です。

これも当グループの撤退事例ですが、関東へ進出した住宅事業のお話です。

まず出店先で施工を担当してくれる協力業者を見つけるのに苦労し、次に単価にも苦しみ、原価が上がって利益が残せないなどの理由で、住宅事業は地場の会社が強いのだと痛感して撤退を決めました。

このときまでに現地で手がけた住宅はすでに数十軒あり、この場合特に問題になるのはアフターフォローです。

「北海道の会社なので、もうできません」なんて言えません。

結局、メンテナンスや修理を引き受けてくれる地元の業者さんを探して提携し、長年にわたって住宅のオーナー様方に対応し続ける、これしかありませんでした。

住まわれているオーナー様方の安心を担保しなければならないことはもちろん、企業の信用にも関わりますから、逃げるわけにはいかないのです。

このように、新規事業の撤退には非常に労力やコストがかかりますから、それを踏まえて新規事業を計画すべきだし、撤退のリスクを想定しながら計画を進めていくべきです。

そして万一の場合に撤退の決断ができないと、いつまでもズルズルと利益の出ない事業を続け、経営リソースを無駄に消費することになります。

この決断の根拠となるのが、次の項目でお話しする「3つの基準」です。

新規事業の撤退判断に必要な3つの基準

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新規事業の撤退を判断する際、私としては3つの基準を根拠とするのが良いと考えています。

①収支基準

利益を出し、会社を成長させるための事業ですから、計画通りの利益が残せない場合は撤退を検討することになります。


ただ、新規事業で1年目から利益を出すのはなかなか難しいですよね。

初期投資にも運用にもコストがかかりますし、ある程度軌道に乗せるまでには時間もかかります。

その上で利益改善の兆しが見えない場合は、その事業を続けて良いのかどうかと考えることになります。

ヤマチユナイテッドには「3年ルール」というものがあります。

事業部ごとに独立採算制で営業利益を管理しているので、この営業利益が3年連続で赤字決算に終わった場合、この事業は継続するか否かという会議の俎上(そじょう)に載ることになります。

直ちに撤退を決めるということではないので、まずは原因の分析や改善策の模索に着手します。

また、赤字じゃないにしても事業計画で想定していた目標が達成できず、未達成の幅も大きい状態が続いていて、かつ改善も難しい、こういったケースでは3年より早期に撤退を検討することもあります。

②市場基準

市場に成長性が感じられるか、競合他社との競争優位性が乏しくないかというところで見るのが市場基準。

そもそもニッチ過ぎる事業だったりすると「ニーズがない」という判断になりますね。

こちらが売りたい価格とターゲット層が飼ってくれる価格の見込みが違っていたりする場合は、利益にも影響してきます。

成長性という点では、今は良くなくても続けていれば絶対伸びてくるだろうという見通しが立たないと続けるのは難しいでしょう。

将来ビジョンを描ける市場であるか、対策のしようがあるか、将来性がまだ見込めるかというところがポイントになります。

③内部リソース基準

いわゆる「ヒト・モノ・カネ」といった経営リソースの消耗が過剰でないかどうかという観点で判断します。

ヒトでいえば、仕事内容が非常にきつくて採用もしづらく、かつ定着しないような事業。

モノでいえば、非常に優良な不動産物件を使っている割に利益が上がらず、収益性を圧迫しているような事業。

こういったものは何かしら対策しないと厳しいですね。

カネは「企業の血液」ですから、赤字資金がどんどん出ていくような事業を抱えて会社がどこまで耐えられるか、企業体力と考え合わせて決断のリミットを設定しなければなりません。

新規事業立ち上げにはしっかり投資し、設備もそろえ、社内でも優秀な人材を投入して臨みますから、その事業が思ったほど振るわないのにズルズルと何年も続けていては、経営リソースの無駄遣いにもなります。

もしかしたら、既存事業からリソースを振り分けたことによって既存事業が弱体化したり、衰退したりといった悪影響が出てくるかもしれません。

成長の期待を込めて新規事業を始めるのですから思い入れが深くなるのはわかりますが、既存事業に影響が出るほど固執してしまうと、他に振り向けるべきリソースがただただ消費され、効率も収益性も下がってしまう可能性があります。

会社全体を俯瞰して、これが果たして経営資源の分配の仕方として正しいのかどうかときちんと見定めることが必要です。

新規事業を成功に導くには、投資回収計画も重要となります。

こちらのコラムもあわせてご確認ください。

投資回収計画とは?収支計画との違いや計画を立てる際のポイントも

新規事業の撤退を決断するタイミングと実行プロセス

前項でご紹介した「新規事業の撤退判断に必要な3つの基準」に照らし合わせ、「この事業は継続が難しそうだ」と判断したら、次は撤退を決断するタイミングが重要です。

実行プロセスとあわせてお話ししていきましょう。

そもそも、新規事業の事業計画は松・竹・梅のイメージで、基本の計画にアップサイド、ダウンサイドの見通しを加えた3パターンを用意しておくべきです。

事業計画に沿って新規事業のPDCAを回していく中で「新規事業の撤退判断に必要な3つの基準」に触れてしまった場合、すぐに撤退すべきか否かの議論に入りましょう。

この判断は最終的にトップを含めた経営層が下すことになりますが、新規事業の撤退を決断するタイミングはいつが良いのか。

うちには「3年ルール」がありますが、先延ばしにしないという意味で、基本は決算終了後となります。

決算が済んで数字が確定したときにもう事業別の損益がわかるので、この結果に至るまでの経緯を分析し、事業としてのトレンドを測るのです。

新しい期に入ればすぐに次の経営計画を策定する時期が来てしまうので、少なくとも決算確定後には、「この事業を次の経営計画にいれるかどうか」というところで一度判断するタイミングになると思います。

新規事業の撤退判断に必要な判断基準は、会社によって独自の基準を決めて構いませんので、撤退するか否かはルールに則って協議を行なってください。

経営者自身は通常決断が早く、継続が難しい状況であればすでに撤退すべきとわかっているはずですから、あとはトップダウンで「やめる」と言うかどうかということを考えます。

もちろん、赤字の額が大きすぎてすぐにやめないと会社の屋台骨がおかしくなるような場合はトップダウンでストップするなり、大きく構造改革したりしなければいけません。

でも、中には「もう少し様子を見よう」という判断があっても良い場合があるかもしれません。

現場責任者に考えさせたい、納得度を上げさせたい場合の話です。

客観的にはどう対策しても先が見えない状況であるなら、「会社全体のことを考えたらやめるべきだよな」という気付きを与えてあげたほうが現場責任者自身も納得がいくし、「現在危機的な状況である」という意識を部下たちと共有できるわけです。

ですから、経営層から「この事業は撤退するべきではないか」と水を差し向けて、現場責任者が「もう少しやりたい」と言うのなら、会社の財務状況が許す範囲で3カ月なり半年なり期限を切ってやらせてみる。

経営リソースを考慮するなら待てば待つほど非効率な状態が続くので、非常に難しい判断ではありますが、撤退の後始末までしっかりやってもらうためには、こうして猶予を与えることも、もし可能なら考えてあげて良いのではないでしょうか。

新規事業の撤退判断は臨機応変に対応すべき

事業の撤退は、その時その時で臨機応変に対応すべきものであるということもお伝えしたいです。

うちも「3年ルール」があるとはいっても1年ちょっとでやめた事例もあれば、3年経ったけれども何度も粘った末に大きく収益を上げる事業に成長したという事例もあります。

撤退の判断基準、プロセス、タイミングと一通り説明してきましたが、一概に杓子定規で運用しているわけではないのです。

「まだやりようがある」「もう少し時間はかかりそうだけれども、良い芽が出てきている」など、小さくても何かしらの希望の光が見えるなら「粘る」という選択肢もアリです。

やめたらそこで終わりですが、経営は生き物ですから、粘って事業を継続したところへ現場責任者の思いや執念のようなものが乗ると挽回して盛り返すこともあります。

経営層としてはどこまで継続を許せるかが大きなポイントになると思いますし、逆にいくら許せたとしてもまったく将来性やビジョンが描けないような状況になっているのなら、時期を待たずに撤退を即断しても良いのです。

こちらのコラムもあわせてご確認ください。

新規事業のリスクを減らす方法や事例を紹介!リスク分析の手法も

事業の多角化戦略の失敗例・成功例とは?成功させる条件もご紹介

新規事業の撤退を次の成長へつなげるためのフィードバックと学び

新規事業を撤退するというととてもネガティブなイメージを持たれがちですが、決して単なる「失敗」ではありません。

撤退は次へ生かすためのステップであり、トライ・アンド・エラーを繰り返して企業を成長させていくためのプロセスの一つと捉えることもできます。

まずは、現場責任者を含めてその事業部で頑張ってくれた社員には「失敗」の責任を問わないという姿勢が必要です。

ヤマチユナイテッドの「事業(撤退)報告書」をご紹介

ヤマチユナイテッドには「事業(撤退)報告書」という書類があります。

この報告書の目的は責任の所在を追及するものではなく、あまつさえ処罰するというようなものでもありません。

撤退の経緯や原因の分析から学び得たものを貴重な経験と捉え、社内の貴重な情報財産として共有し、蓄積していくことが目的です。

事業失敗撤退報告書には以下のような項目が用意されています。

  1. 事業発想の原点
  2. 立ち上げの経緯、組織、体制
  3. 初期投資の内訳と金額
  4. 立ち上げから撤退までの業績推移と合計損失額(各年度と合計額)
  5. 撤退判断の経緯
  6. 撤退理由
  7. 教訓
  8. その他特記事項

同じ書類に社長、役員、部門長のコメント記載欄もあり、すべて記入されたものを共有サーバに格納して事業責任者クラス以上の社員が閲覧できるようにしています。

うちでは撤退に至るまでの判断がすべて会議の中で協議され、決定や了承も会議の場で採決されるので、このプロセスもあらかじめ共有されているという状態です。

ちなみに、社員には責任を問わないことを再確認するため、書類の最初には「目的は、失敗や撤退を正しく振り返り、次に生かすためです」と明記してあります。

こうして蓄積された知見が今後に生かされ、「同じ轍は踏まない」という意識のもと、新規事業開発の際のリスク回避、リスク低減のヒントとなるので、成功の確率は上がっていっていると感じています。

必勝なき新規事業だからこそ撤退基準が重要!チャレンジを繰り返して成功率を上げよう

新規事業開発は中小・中堅企業の成長を図る上で必須といって良い戦略の一つですが、「必勝」はありません。

百発百中はまずあり得ない、いわば「チャレンジ」ですから、事業立ち上げに先んじて撤退する場合の損失についてもあらかじめ見積もっておく必要があります。

だからといって撤退リスクを恐れてやらないままでは何も起こらないし、現在の社会情勢ではやらないリスクのほうが大きいかもしれません。

「チャレンジを繰り返して母数を増やしながら成功確率を上げていこう」というのが、新規事業開発の考え方です。

既存事業においても、チャレンジの繰り返しによってだんだんと規模が拡大していくものです。

ヤマチユナイテッドもそのようにして事業数を増やし、グループとしての成長を重ねています。

今回のコラムを読んであらためて「新規事業の成功率を高めたい」という思いを強めた方は、私たちが実践するシステム経営を取り入れてみてはいかがでしょうか。

また、当グループの経営ノウハウを詰め込んだ「連邦・多角化経営実践塾」は、これから多角化を進めようと考えている方はもとより、多角化によって新たな課題に直面している方にもきっとお役に立てると自負しています。

ホームページから要項をご確認の上、参加をご検討いただければ幸いです。

連邦・多角化経営実践塾

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