収益向上とは?自社にとって適正な利益額の考え方を知ろう

業績管理・経営計画

石崎 貴秀
石崎 貴秀

graph_250219.jpg

こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。

会社経営において、「会社を成長、発展させること」と「利益を出すこと」は決して切り離して考えることのできない命題です。

利益はいくらあっても困りませんが、自社にとって必要な利益がどのくらいかを把握しておくことは経営戦略上でも重要なポイント。

経営者の皆さんはその重要性を身にしみて理解しているはずですが、その感覚を幹部陣や社員と共有することができれば、目の前の計画や目標に対する姿勢も変わり、収益や生産性の向上にもつながっていくのではないでしょうか。

今回は、収益向上のために利益について改めて考え、収益性の改善に取り組むためのヒントをご紹介。

幹部陣や社員に利益の必要性を説くうえで参考となるコラムをお届けします。

目次

  1. 利益はなぜ必要か?「5つの利益」から確認
  2. 収益向上のために利益について改めて考えよう
  3. 必要な利益・欲しい利益・残したい利益の額や率から逆算して、経営計画を算出!
  4. 営業利益率を重要視し「収益性の改善」に取り組もう!
  5. 収益向上のためにも利益が重要!安定した会社経営を続けながら、夢を実現しよう

利益はなぜ必要か?「5つの利益」から確認

そもそも、利益は何のために必要なのでしょう?

会社経営において、キャッシュは「企業の血液」といわれるほど大切なものですが、これを生み出すのが利益です。

利益が出ていないと、それなりにキャッシュが回っていたとしても徐々に流出していく一方で、会社は衰退していきます。

会社設立の際に準備した資本金からスタートし、そこに利益を積んでレバレッジをかけていくのが経営の基本。

利益はいくらあっても困るものではありませんが、簡単に増やせるものなら誰も苦労しません。

そこで、まずは「自社に最低限必要な利益はどのくらいか」と考え、それをクリアできたら次は「どのくらいの利益が欲しいか」という発想で考えていきましょう。

経営計画や予算計画は目標とする利益をベースに組み、具体的にどうやって実現していくかという道筋を事業計画に落とし込むのです。

つまり、この連動性の出発点となるのが利益です。

「5つの利益」とは?

幹部陣や社員には利益の考え方を伝えたうえで、損益計算書(PL)に表現される、いわゆる「5つの利益」について説明しましょう。

①売上総利益(粗利益)

売上から原価を引いた金額のことを「売上総利益」といいます。

一般的には「粗利益」という言葉のほうがなじみ深いかもしれません。

②営業利益

売上総利益(粗利益)から「販管費(販売費および一般管理費)」、つまり人件費や水道光熱費といった経費を引いた金額です。

③経常利益

経常利益とは、営業利益に営業外利益を足し、営業外費用を引いた金額。

営業外利益・営業外費用とは、通常の事業とは直接的な関係がない収入・支出をいいます。

例えば、不動産会社が自社所有物件の賃貸料で収入を得ている場合は「売上」になりますが、卸売業の会社が同様に不動産収入を得ると「営業外利益」として計上されるケースが一般的です。

ただ、後者の場合でも、こういった収入を「売上」とするか「営業外利益」とするかは会社の自由です。

このほか金融機関から借り入れがある場合、一般的な会計基準として、利子は「営業外費用」として計上されます。

④税引前当期利益

経常利益に特別利益を加え、特別損失を引いた金額が、税引前当期利益です。

特別利益・特別損失とは、恒常的でない一時的な収入や支出を指します。

例を挙げると、手元にあった株式の売却益や売却損です。

また、不動産などの資産を売って収入を得た場合は特別利益と位置付けられます。

⑤当期純利益(損益)

当期純利益(損益)とは、「税引前当期利益」から税金(法人税、法人事業税、法人住民税など)を引いた、最終的な利益(損益)のことです。

税引前当期利益を基に、法人税法の規定に従って税務調整を行い、課税所得金額を算出します。

法人税額は、この課税所得金額に税率(法人税率)を乗じて計算し、税額控除を適用した後の金額を納めます。

国税である法人税の税率は、原則として23.2%とされています。

法人の区分(普通法人、一般社団法人など)や所得金額に応じて税率は異なり、中小法人の場合、年間の所得金額が800万円以下であれば15%※の軽減税率が適用されます。

※2025年1月時点、法人税率の軽減は2025年3月31日まで適用

※参照:法人税率の軽減 | 中小企業庁

また、法人税(国税)だけでなく、法人事業税、法人住民税といった地方税も納める必要があります。

地方税は自治体によって税率が異なりますが、一般的には10%~20%程度になることが多いようです。

このことから、税引前当期利益から税金として納める割合(実際の税負担)を合計すると、25%~30%程度になると考えられます。

これはあくまで目安であり、法人の状況や自治体によって異なるでしょう。

また、当期純利益(損益)がプラスの数字ならこれが会社に残る「利益」になりますし、マイナスなら「損失」と表現されます。

事業評価をする際に着目するべき利益は?

ご紹介した5つの利益はすべて大事ではありますが、事業評価をする際にもっとも着目するべきところは営業利益

営業上の成果は、営業利益に表れるからです。

もちろん経営上は5つの利益すべての数字を見ていくべきなのですが、最終的にはキャッシュフローが増加したかが一番大事。

当期純利益がそのままキャッシュとして残っていればベストですが、往々にして残っていないケースもあります。

例えば、税引前当期利益が1億円あったとしても、そこから法人税などの税率を35%として税金を計算すると約3,500万円を納めることになり、残りの金額は約6,500万円となります。

これがそのまま残って前年の現預金より6,500万円増えていれば良いのですが、実はそのお金で3,000万円の建物を建て、4,000万円の在庫を増やしたとなれば、合計7,000万円の支出です。

この場合、キャッシュとしては前年比で500万円減少したことになるでしょう。

結果的に「前年よりお金が減っている」のですから、そこまでお金を使って良かったのかという話になります。

とはいえ、戦略的にお金を使いたい部分もあるでしょう。

であれば使いたい額を超える利益を残さないと、手元の現預金は増えていきません。

経営とは資本をベースに事業を通じて利益を上げ、お金を増やしていくことですから、利益の必要性はいわずもがなですよね。

「額」と「率」の2つの視点も確認

利益の数字を見る際には「額」と「率」の2つの視点があります。

「額」はそのまま「金額」という意味で、「率」は売上高に対する利益の割合、つまり「利益率」です。

利益率の計算式は以下のとおりです。

利益率=当期純利益÷売上高×100

例えば「5,000万円の利益が残りました」という会社があったとして、金額は結構大きいように思えますが、売上高50億円の会社なら利益率は1%にしかなりません(5,000万円÷50億円×100=利益率1%)。

かたや、売上高5,000万円の会社では、500万円の利益が出れば利益率は10%となります(500万円÷5,000万円×100=利益率10%)。

このように、利益と売上高によって利益率が異なります。

「額」だけでなく、会社の規模感に応じて「率」で見ることが重要です。

収益性を見る場合は、「率」で比較していくことになります。

額は十分足りているか、率については生産性は高いかどうか、という視点でそれぞれ分析することが重要です。

収益向上のために利益について改めて考えよう

calculator_250219.jpg

「利益」に対する考え方として、皆さんの心に留めておいていただきたいことがいくつかあります。

収益向上のためにも、利益について改めて考えてみましょう。

利益とは目的ではなく結果である

経営者の皆さんなら同意していただけると思いますが、会社は利益だけを目的に存在しているのではありません。

逆にいえば、「利益が出るなら事業内容は何でも良い」と利益だけを目的にする会社はうまくいかないと思います。

お客様や取引先に満足していただき、喜んでいただいたことの対価が売上で、そうしたすべての事業活動を行った結果、残るのが利益です。

利益を出すためには誰に何をどのように提供すべきかをしっかり考えるということにも紐づいてくるはずです。

利益は将来のための費用である

利益は過去の費用を計算して額を算出するわけですが、そうして得られたお金を今度は将来のために使うという流れになっています。

利益は会社が存続するためになくてはならないものである

会社はなくなる前提で作られているのではなく、今後も永続することを見据えて作られています。

そのためには利益を出し続けていかなければなりません。

利益の具体的な役割も確認

利益の具体的な役割についても改めて考えてみましょう。

①顧客満足のバロメーター

利益が出る、残るということを言い換えると「自社の商品やサービスを自社が売りたい価格で買ってもらえている」ことになると思います。

どんな値付けでも売上は上がるかもしれませんが、利益を出すための値付けが顧客に受け入れられているか、それが重要です。

価格と価値の整合性が取れていて利益が出ている状態なら、顧客満足も得られているはずです。

②事業の有効性と健全性を測る物差し

①と似ていますが、視点を自分たちの側に向けた見方です。

ある程度の価値のある物を安く提供すれば、お客様に「コスパが良い」と喜んでもらうことは可能です。

しかし、売る側に利益が残らないのであれば、事業として健全であるかどうかを疑う必要があります。

「顧客満足を得られていても利益が出ていない」ことはどこかがおかしく、何かが間違っていて、その事業は健全な事業とは言えないと考えられます。

③将来のリスクへの備え

将来のリスクへの備えは「内部留保」ともいわれますが、いわゆる貯金です。

昨今、自然災害の発生頻度が増加していることや、社会情勢の変化といったリスクを想定することはもう当たり前といって良い状況ですから、これらがなくならないとするならばしっかりと内部蓄積もしておく必要があります。

会社そのものが倒産しては元も子もありません。

④将来の利益獲得のための準備

「現状維持は衰退である」といわれる今の時代、継続的な投資活動のための軍資金としても利益を活用すべきです。

新規事業、新商品開発、採用・教育、研究、テスト、マーケティングに市場拡大と、会社を発展させていくための投資を継続的に行っていくには、やはり利益が元手となります。

⑤資金を調達する際の誘い水

自己資金ですべて賄うことができれば不要ですが、一定の規模の大型投資を実行するときには、金融機関ないし外部から資金調達をする場合もあるでしょう。

お金を貸す側からすれば、ある程度の利益を安定的に出している、あるいは徐々に増やしている会社でないと返済能力に不安を感じるのは当然ですし、条件も厳しくなります。

好条件で資金調達を可能にするためには、利益が重要な役割を果たすと思います。

必要な利益・欲しい利益・残したい利益の額や率から逆算して、経営計画を算出!

利益に対する考え方が整理されてきたところで、自社にとっての適正な利益についてお話しします。

要は必要な利益、欲しい利益、残したい利益をきちんと設定して、その利益額から逆算して経営計画、予算計画を組むということです。

これらの利益は会社としての将来設計やリスクヘッジにも関わってきます。

以下の業務に関わる費用を中心に考えていきましょう。

  • マーケティング:市場や競合、ニーズの調査、広告販促
  • 設備投資:工場、生産現場、オフィス、移動手段の維持管理および新設
  • 商品開発:新商品、新サービスの研究開発、専門機関での試験や認証、技術革新
  • 市場開発:既存エリア外への進出、出店
  • 採用:仲介業者への手数料・紹介料、広告
  • 福利厚生:貢献社員への報酬、成果分配、賞与、昇給、各種補助
  • リスクヘッジ:内部留保

これらを自社の規模や社員数に応じておおよその金額で設定し、さらに税金として納める分や株主配当、借り入れがあれば返済額も考慮して逆算してみてください。

そうして出た数字が、現在の皆さんの会社にとって最低限必要な利益です。

利益目標達成のための予算編成は?経営者・経営幹部の役割も確認

やりたいことはあれこれあって、借入金を返して、税金も払って...と、実際に計算してみると、利益を残すのはなかなか難しいことなんですよね。

投資をしながら生産性を上げて利益を残し、現預金を増やすことは、一見逆行することのように思えますが、これを両立させることができるかどうかが「経営」です。

難しいことに思えますが、経営を実現していくのが経営者であり、経営幹部の役割だと認識するべきだと私は考えています。

先述のように、必要な利益、欲しい利益、残したい利益を得るためにはこれらの利益額を算出し、そこから逆算することで導き出した数字を基に予算を編成するのが肝。

「少なくとも1億5,000万円の利益は必要だ」となれば、それ以上の計画を立てるべきですし、すでにクリアできる状況であってもそこで安心するのではなく、目線を上げて「利益率を上げていこう」という尺度で考えればいいと思います。

いずれにしても「結果としてこれだけ利益が残ったから良かったね」ではなく、利益を残せば残しただけ将来への投資ができますから、そのような観点で幹部陣や社員と話し合いをすることが大切です。

「これしかできないからこれくらいの利益額を目標に」ではなく、「これをやりたいからこれくらいの利益額が必要なのだ」と対策を打つほうが発展的だと思いませんか?

利益が残る計画の立て方はこちらのコラムでご紹介していますので、ぜひご一読ください。

目標利益の設定方法とは?具体的なやり方と事例を紹介

営業利益率を重要視し「収益性の改善」に取り組もう!

このコラムの初めに「5つの利益」をご紹介しましたが、事業としてはやはり営業利益における収益性をしっかり上げていくべきだと思います。

収益性の改善のためのポイントについてご紹介します。

経営計画、事業計画に「収益性の改善」をテーマに組み込み、対策を加える

収益性を上げることを意識して取り組み続けていくためには「収益性の改善」をテーマ化して経営計画、事業計画に組み込むことがポイントです。

そして、常に「どんな手を打つべきか」と対策を加えていくことを忘れないようにしたいですね。

事業計画の立て方。業績アップにつながる考え方について」でも、詳しくご説明しております。

利益率の改善

「収益性の改善」と同時に、経営計画や事業計画には「利益率の改善」も盛り込みましょう。

利益率の改善のポイントは「値上げ」「原価圧縮・削減」「経費削減」の3つです。

当然、販売数の増加を図ることも必要です。

生産性の改善

生産性の改善には、1人当たりの営業利益額を上げていかなくてはなりません。

「そのためには何をするか、誰がするか、どのようなチーム体制で、どのように行動するか」といったことを事業計画にしっかり落とし込み、社員一人ひとりが日々の業務で実践できるようにすることをご検討ください。

業務効率化、標準化、スキルアップ、システムの利用といった対策も打っていきましょう。

こちらのコラムもあわせてご確認ください。

一人当たりの生産性を上げて利益を向上するには?ポイントやヤマチの事例も

収益向上のためにも利益が重要!安定した会社経営を続けながら、夢を実現しよう

会社を永続させ、安定した経営を続けていくためになくてはならないものが利益。

利益が出ることはあくまでも結果であって、目的ではありません。

利益は時に顧客満足のバロメーターとして、時に事業の健全性を測る物差しとしても機能するものであり、経営者の皆さんが会社経営を通じて実現したい大きな夢を、社員と一緒に一つずつ叶えていくための資金でもあります。

ですから、どれだけ利益を残せるかということは経営戦略を立てるうえでも大変重要です。

必要な利益、欲しい利益、残したい利益をあらかじめ設定したうえで逆算し、経営計画や予算編成に反映させていくのが適正な利益の導き出し方となります。

利益額、利益率を上げるためには、特に営業利益に着目し、現場の社員にも意識的に動いてもらわないとなりません。

なぜその利益が必要か、なぜその利益額・利益率を目指すのかが納得できるように、「これをやりたいから」と根拠を示してあげることも大切です。

トップダウンの傾向がある会社だと、指示命令の根拠や理由を提示する機会があまりないかもしれません。

しかし、社員に十分な情報を与えることで、経営者や幹部に近い目線で会社の業績や利益に意識が向きます。

そうなると、社員が自主的・自律的に動いてくれるようになり、結果的に生産性が上がるという大きなメリットを得ることができるでしょう。

まさに、この過程をたどってきたのが私たちヤマチユナイテッドです。

当グループが主宰する「連邦・多角化経営実践塾」では、自律的人材を育成するためのノウハウを余すところなくお伝えしていますので、興味のある方はホームページで詳細をご確認ください。

連邦・多角化経営実践塾

SHARE! この記事を共有する