経営幹部が会社の数字に強くなるには?効果的な教育方法と環境づくり
採用・育成
こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。
経営者として事業拡大を考えていくなら、権限移譲は必須条件。
「今いる幹部社員にはこれから経営人材として頑張ってもらいたいけれど、もっと経営感覚を身につけさせるにはどうしたらいいか」と、お悩みの方もいらっしゃることでしょう。
経営者の資質として求められるものは色々ありますが、その一つとして、会社の業績を表す数字に強くなってほしいものです。
今回は、経営幹部をより頼もしく育てるための方法、ならびに環境づくりを解説していきますので、ぜひ実行してみてください。
目次
- なぜ経営幹部は数字に強くないといけないのか?
- 会社の数字に強い経営幹部がいる組織とそうでない組織の違い
- 経営幹部が会社の数字に強くなる!決算書を読み解くのに必要な知識
- 経営幹部をはじめとした社員が会社の数字に強くなる教育方法とそのコツ
- 経営幹部が会社の数字に強くなるには環境整備と実践がカギ
なぜ経営幹部は数字に強くないといけないのか?
ヤマチユナイテッドでは、新入社員研修から会社の業績を表す数字を読み解くためのプログラムを取り入れていますが、今から始めたい企業の皆さんに対しては、まず上の階層にいる社員から教育を施していくのが良いかと思います。
上の階層にいる社員から、という意味では経営者自身が数字に強くあるべき。
中には「あまり得意ではない」という方もいらっしゃるかもしれませんが、何かにつけ最終的に決断を下す立場からしてそうも言っていられません。
そして、次に数字に強くあってほしいのが社長の右腕となる幹部陣です。
「数字」とはつまり財務です。
会社経営を進めるにあたって、業績は最終的に決算書という形で数字に現れてきますが、これらを読み解けないと、何を根拠に戦略を立てるのかという話になるのです。
また、幹部陣が数字に対する感覚を持っていないことはつまり、社長との共通言語を持っていないことと同義といえます。
社長は貸借対照表も損益計算書もキャッシュフロー計算書も理解していて、その上で経営計画を立てる。
しかし、部下である幹部陣はこれらの書類の数字の意味を理解していないし、もしかしたら見たこともないのであれば、話が通じないですよね。
幹部社員が数字を読み解けないと、戦略どころか経営上起こるさまざまな物事の重要性、経営の危機感などを社長と共有できないわけで、そのことが一番の問題点です。
規模の小さな組織で、社長がすべてを掌握できるうちはまだ良いですが、通常業務の範囲でもある程度任せて動いてもらうのであれば、少なくても損益計算書を読み解くための数字感覚はやはり必須だと思います。
例えば、単純に営業の場面においても「いくらで売ればいいか」「原価をどう抑えるか」「経費をなるべくかけないように」など、利益率を改善し、生産性を上げていくよう働きかけるためには損益感覚が身についていないと任せられません。
生産性が上がらなければ業務改善すべきですし、あるいはビジネスモデル自体の構造改革、またはブラッシュアップを検討することもあるでしょう。
そのポイントが売値の問題なのか、コストの問題なのか、経費の問題なのか、いかにして少人数で最大の営業利益を出すか、商品・サービスの見直し、コスト・原価・仕入れ交渉など...
こういったことすべて、損益感覚がないと業務改善や改革が進まないのです。
特に幹部社員であるからには、さらに貸借対照表やキャッシュフロー計算書も読めるようにしておいてほしいですね。
貸借対照表でいくつか例を挙げるなら、まずは「売掛金」の回収意識となります。
きちんと販売して売上となった分は完璧に回収するという意識の問題です。
次に、「在庫」の数字を正しく読めれば「在庫が不用意に増えているな」「回転率が悪くなっているな」「滞留しているな」「まったく出荷されない在庫も眠っているな」ということがわかってきます。
数字感覚がない社員であれば、売れるものはどんどん仕入れて出荷するけれど「売れないものはそのまま置いておいて良いだろう」と考えるかもしれません。
在庫がたくさんあればすぐ出荷できるし、ロットで買えば安く仕入れられるから粗利だけ見れば良さそうに思えます。
ですが、売れない在庫を放置していると、型落ちなどでいつか値引きして売らないといけないもの、捨てないといけないものになってしまう...これが、貸借対照表の数字感覚です。
「固定資産」も数字感覚で見れば、例えば1億円かけて取得した建物の投資回収はいつなのか、どれだけ利益を出して元手を取り返すのかといったことを考えていないとならないですよね。
そもそも金額の大きい資産を持つということは「総資産が膨らむ=財務の評価として経営が重たくなる」こと。
そうなると借り入れをしたいときに制限が付いたり借りられなくなったり、利息などの条件交渉で不利になったりするケースもあるように、数字感覚のありなしが経営に直結してくるんです。
そういう意味でも、経営幹部を担う人たちには数字を理解し、経営に生かせる感覚が身についていないといけないと考えています。
会社の数字に強い経営幹部がいる組織とそうでない組織の違い
会社の数字に強い経営幹部がいるのといないのとでは、経営管理のポイントが変わってきます。
段階的にお話ししてみましょう。
経営幹部が数字感覚をほぼ持っていないような組織だと、経営者だけが数字を見られるようになっていて「君たちは売上だけ上げてくれればいい」と指示があるのみで、「利益がどれだけ出るかは私の感覚でだいたいわかる」という売上管理になっていると思います。
ここから少し数字に対する理解が進むと、今度は「粗利益を上げてくれ」というオーダーになるでしょう。
次に「原価がかかるのだから、粗利益は何パーセント以上取れるようにしてほしい」となれば、粗利益管理になります。
もっと理解が進んで数字がわかる幹部が増えてくると、経費を公開して「これもきちんと管理してね」ということに。
経費を管理することは、営業利益を管理することにつながってきます。
さらに会社の数字に強くなると、営業外の収益や損失も加味して経常利益がわかるようになり、最終的には税引き後の当期利益が本当の利益であることまで理解できるようになります。
ここまでくれば収益面での経営管理をほぼ任せることができるもの。
会社の数字に強い経営幹部がいるか・いないかの違いは、管理を任せられるレベルの違いといえると思います。
これに加えて、経営者により近い幹部を育成したいのであれば、貸借対照表の改善、つまりキャッシュフローを考えられるようにしていくこと。
ここまでくれば、本当の意味で会社を良くするための「経営」です。
社長がすべて考えて指示を出し、トップダウンでやっていけるうちは良いですが、会社が大きくなって社員が増えていくと1人では物理的に無理なんです。
事業拡大を考えるのであれば、経営を任せられる幹部がいないといずれ頭打ちになってしまうでしょう。
幹部社員が数字に強くなると「何をすればいいですか」ではなく、「こうしてもいいですか」と聞いてくるように変わっていきます。
話の内容が「一時的に先行投資は必要ですが、何年後に投資回収が可能です」「キャッシュフローの面も問題ありません」「だからこうしてもいいですか」となります。
経営者は最終的にそれが良いか悪いか、決裁を下せば良いのです。
今まで自分だけで考えていた戦略や対策が幹部から出てくるようになる、そしてそれが本当の意味で会社を良くする方向で考えてくれているということが、会社の数字に強い幹部がいる組織の一番大きなメリットだと思っています。
経営幹部が会社の数字に強くなる!決算書を読み解くのに必要な知識
会社の数字に強い幹部がいることのメリットを知っていただいたところで、彼らが決算書を読み解くのにまず必要な知識について説明していきます。
決算書のなかでも、特に財務三表といわれる以下3つはしっかり押さえておきたいですね。
- 貸借対照表(バランスシート)
- 損益計算書(PL)
- キャッシュフロー計算書
それぞれご紹介します。
貸借対照表(バランスシート)
貸借対照表(バランスシート)は表の左側が資産勘定、右上が負債勘定、右下が純資産という構造ですから、左側の資産のほうの感覚を強く持ってほしいと思います。
資産は上から、現預金、売掛金、在庫というような順番で並んでいますが、前項の例に挙げたように売掛金、棚卸資産を含む在庫の項目はしっかり確認を。
売掛金も在庫も膨らんでいくということはお金が滞留しているということですから、「できるだけ現金化しよう」「不必要に肥大化しているがその理由は?」といった見方ができるようにしましょう。
固定資産はあまり動きませんが、投資が絡むケースではここの意味や重要性をどう捉えるかといったことがポイントになります。
損益計算書
損益計算書は完全に収益構造を表している書類ですから、最終的な当期利益をしっかり出し、その利益率を高めていくためには売上と原価の関係性、経費は何にいくらかかっているかをここから読み取れないといけません。
そうしないと改善に着手できないからです。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書はお金の流れを表しているので、物を仕入れて支払うこと、それを販売して代金回収することの期間の差を意識して見てもらいたいです。
売れば売るほどマイナスになるということもあり得ますから、そこの知識も必要ですね。
例えば、代引きで仕入れた物を在庫し、売掛で販売する場合。
「代金は翌々月入金の条件でしか売れない」という条件で始めた場合、お金はどんどん先に出ていきます。
ということは仕入れるための運転資金がまず必要で、ようやく売れても入金は2カ月後。
ここに回収ギャップが生じています。
こういう資金繰り構造では売上が上がれば上がるほどお金が足りなくなってくるけれど、このまま続けて良いのか、資金調達力は大丈夫かなどチェックすべきポイントがいくつもありますよね。
これの逆をやって収益を上げてきたのがAmazonで、ユーザーからはどんどんお金が入ってきて、商品を発送してその商品代を支払うのは1カ月後とか2カ月後。
売れば売るほどキャッシュがたまり、資金としてシステム開発につぎ込むことができたのです。
もう一つ、当社の事業から例を挙げると、住宅事業は回収サイトが長い商品の代表格といえます。
土地の仕入れや建築材料の仕入れ、工事代金などお金がどんどん先に出ていって、今は中間金みたいな仕組みもありますが、基本的に回収できるのは最後。
特に分譲建売住宅は完全に仕入れて建ててしまってから販売するので、売れるまではずっと在庫になっているんです。
もちろんちゃんと売れれば利益がついて戻ってくるのですが、売れなかった場合はそこでお金が眠っているということになってしまう。
こういう感覚を身につけておくことも大事です。
経営幹部をはじめとした社員が会社の数字に強くなる教育方法とそのコツ
数字に強い幹部および社員を育てるためには、まず基礎的な教育をしても良いかと思います。
ヤマチユナイテッドでは、新入社員の入社時研修「フレッシャーズキャンプ」で1年目から収益構造や貸借対照表の見方、読み方を一通り教育しています。
コラムの読者の皆さんが「既存社員、特に幹部を手始めに教育しよう」ということであれば、社長が幹部に教えても良いし、普段から業務として数字に携わっている経理や財務の担当者に教育を任せても良いし、外部から税理士さんに来てもらってレクチャーをお願いしても良いでしょう。
会社の数字に強くなる教育を進めるにあたっては、大きな前提が2つあります。
その2つとは、部門別に営業利益を管理する「管理会計」を取り入れること、そして数字をオープンにすることです。
これらは数字に強い幹部を育てるための環境づくりとして、もっといえば、幹部に会社経営を自分事として実感させるためには必須です。
その上で、会社の業績に関する数字や情報をベースとして、例えば経営計画を立てさせる、あるいは一緒に立てる。
計画策定の過程で数字に触れさせる、数字を扱わせる。
損益を考えながら事業計画や新規事業のプランを練っていくと、投資、棚卸資産、場合によってはキャッシュフロー、借入なども絡んできます。
こうして実際の数字に触れさせ、お金の流れを理解させることが実践的な教育となります。
加えて、少なくとも年1回、決算申告が終わったら幹部陣に決算書を公開して、「これだけ良くなり、ここは悪化した」ということを知らせてフィードバックしましょう。
これも「数字をオープンにする」という環境づくりの一環です。
教育というと「こんな本を読め」のようなこともありますけれど、理屈だけ解いても実際に扱わないと覚えられないものなんです。
決算書の見方を本で読んだとしても、実際に決算書を見る機会がなければ数字感覚は身につきません。
だから、数字に触れる機会、扱う機会をきちんと作ってあげること。
財務改善計画を立てて、どこがどれだけ進捗しているか定点観測する体制を作って進めていくだけでもだいぶ違うと思います。
「会社の数字に強い幹部がいない」とお悩みの方は、「そもそも実践の機会を与えているだろうか」というところを考えていただけると良いのではないでしょうか。
こちらのコラムもあわせてご確認ください。
幹部候補を育成するポイントとは?社員全員を幹部候補に育てる環境
経営幹部が会社の数字に強くなるには環境整備と実践がカギ
経営幹部が数字に強いということは、経営者との共通言語を持てるということ。
経営者と近い目線で数字、つまり財務について話ができる幹部でなければ、経営上起きるさまざまな物事の重要性や経営の危機感を共有することができないのです。
普段の業務においても数字感覚が求められる場面が多く、損益を見ながらお金の流れを把握し、業務改善を図るといった一連の流れを任せられる人材を確保するためにも、特に幹部社員には数字感覚が求められます。
数字に強い幹部がいる会社は、彼らが社長に成り代わって経営を進めることができます。
事業拡大を考えているのなら、トップダウンのワンマン経営ではいつか限界が来るでしょう。
そこで権限移譲できるか・できないかが、数字に強い幹部がいる会社といない会社の違いだと思います。
知識としては、少なくとも財務三表である「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」を読み解けるようになってほしいと思います。
幹部への基礎教育としては、まず財務三表の読み方・考え方を社長、または経理や財務担当者や、外部の税理士さんがレクチャーしてあげてください。
さらに教育を進めるにあたっては大前提が2つあり、管理会計を取り入れること、業績に関わる数字をオープンにすることが必須です。
その上で、経営計画を一緒に立てることなどを通じて実際の数字に触れさせ、扱わせる。
そうして決算申告が済んだら幹部に決算書を公開し、フィードバックする。
こうしたことが実践的な教育となり、数字感覚が身についていきます。
ヤマチユナイテッドでは、社員全員参加型のシステム経営を取り入れていますが、システム経営こそ「数字に強い=経営を任せられる社員を育てる」ための経営手法。
もちろん管理会計とオープン経営は必須です。
そうはいっても、社員に数字をオープンにするのはハードルが高い、会社の数字を幹部に自分事として捉えてもらうのは困難だと感じる経営者の方々もいらっしゃることでしょう。
当グループでは、最初の一歩を踏み出すための理解を幹部に促すところから、実践的な社員教育、環境づくり、仕組みづくりまで網羅する「連邦・多角化経営実践塾」を主宰しています。
経営者だけでなく、幹部陣と一緒に参加していただくプログラムですから、「上位層から意識改革を行いたい」という企業様にもご好評をいただいています。
当社のノウハウを実践してみたいという方は、ホームページから募集要項をご確認ください。
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Authorこの記事の著者
株式会社ヤマチマネジメント|取締役 |グループ執行役員
石崎 貴秀
1996年入社。営業課から国際課を経て、総務部チームリーダーへ。その後グループ経営推進会議事務局にて経験を積み、2009年(株)ヤマチマネジメントを設立、移籍。グループ管理本部の統括マネージャーとして采配を振るう。2017年(株)ヤマチマネジメント取締役就任。
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「連邦・多角化経営実践塾」の開塾にも携わり、2014年以降、第1期~現在までシステム経営のメイン講師として活躍。
入塾した企業約70社にシステム経営を指導してきた。現在はシステム経営のコンサルティングも担当。