納得できる給与制度の考え方。肝となる「成果分配」の仕組みについて
組織・給与制度
こんにちは、山地です。
多角化経営を実践していると
「それぞれの企業・事業部の報酬はどうやって決めているんですか?」
「従業員の給与はどうやって決めているんですか?」
などと、給与制度について聞かれることがあります。
確かに事業が違えば給与のシステムも違いますし、業界の慣習も違います。
一律の基準を押しつければ、社員の間に不満がくすぶってしまうでしょう。
当社がモットーにしているのは「成果分配」。
今回は成果分配の仕組みについて具体的に例をあげて、ご説明しましょう。
目次
- 給与制度の考え方は事業によってケース・バイ・ケース
- 一般的なボーナス+期末に支払われる成果配分という決算賞与
- 給与制度の肝「成果配分」とは
- 「成果配分」の仕組みと制度導入の際のポイント
1・モチベーションが上がる「バー」を設定する
2・少し頑張れば達成できる、ほどよい基準を
3・一番辛い「制度があるのにもらえない」にならないような基準を
4・新規事業はマイナスバーを設定することも - 給与制度は「自主計画、自主管理、自主分配」で納得性を高める
- 納得できる給与制度で、社員のモチベーションもアップ!
1.給与制度の考え方は事業によってケース・バイ・ケース
当社では、給与制度のベースとなる等級は、どの企業・事業部にも同じものを落とし込んで統一しています。
しかし、多角化経営の場合、事業範囲がさまざまな業界・業種にわたっているため、それぞれの業界・業種の標準にあわせて賃金ベースやインセンティブ(歩合制)の有無などが異なります。
住宅部門であれば住宅業界の基準がありますし、介護部門であれば介護業界の基準があるので、それぞれの業界のベースに合わせています。
たとえば、住宅関係の営業職はインセンティブがあるのが一般的なので、インセンティブの幅を大きくし、営業担当者の成績によって給与が大きく変動するような仕組みになっています。
業界によってはプラスアルファの特殊手当が必要なこともあり、各事業によってケース・バイ・ケースで対応している、というのが実状です。
2.一般的なボーナス+期末に支払われる成果配分という決算賞与
給与制度の考え方については事業によりケース・バイ・ケースとお話しましたが、ボーナスの考え方については共通しています。
基本的にボーナスは、夏・冬・期末の年3回、赤字でなければ支給されるのが原則です。
こうした賞与制度はごく一般的ですが、当社の給与制度で特徴的なのは、通常のボーナスとは別に、期末に「成果配分」という決算賞与がプラスされる点です。
成果分配は、業績の良い事業や部門は分配原資が大きく、ドカンと支払われるルールになっています。
したがって、「利益」に比例して大きな差が生じ、個人レベルで何百万円も年収に差がつくことがあります。
3.給与制度の肝「成果配分」とは
当社では給与制度の肝は上記でお話した「成果配分」だと考えています。
「成果配分」とはどのような制度なのかご紹介しましょう。
なお、今回のお話の中に出てくる「利益」とは、正確には生産性のことで「1人当たり営業利益」を基準としています。
したがって、少人数でたくさんの利益を出していれば、配分が多くなるというわけです。
社員の生活給にあたる部分は年功給で毎年少しずつ上がっていき、役職がアップすればそれに合わせて給与額も大きく増えていきます。
これは、どの業界、どの会社でも行われている一般的なものでしょう。
そうした普遍的な給与制度に「成果分配」という制度をプラスすることで、ヤマチ色を出しています。
この成果分配は20年近く前から導入している仕組みですが、多角化経営に不可欠な「システム経営」を実践していくうえでも、肝となる大事な仕組みのひとつです。
4.「成果配分」の仕組みと制度導入の際のポイント
つづいて、成果配分の仕組みについて見ていきましょう。
成果配分の制度を導入する際のポイントや注意すべき点など、当社の実践例をふまえながらご紹介します。
1・モチベーションが上がる「バー」を設定する
当社では年度末決算の実績が、予定していた1人当たりの営業利益(生産性)を超過した分の20~30%を「成果分配」として部門に還元するルールを設けています。
たとえば、目標とする1人当たり営業利益を100万円と決めた場合、その事業部に10人の従業員がいれば1000万円の営業利益が基準(バー)となり、同時にそれが事業部の目標になります。
年度末、実際に2000万円の営業利益が出たのなら、超過した1000万円の20~30%、すなわち200~300万円を成果分配として10人のメンバーに分けるのです。
もちろん、単純に10等分ではなく、職階級ごとに分配します。
上位階級を100とした場合、その下の階級は50%、さらに下位職はその50%という具合に事前に決めておき、その比率に応じて分配します。
つまり、部門長など責任の度合いが高い社員ほど、多くの成果分配を得られるという仕組みです。
このように、成果分配は利益が一定額を超えたら出すというものなので、社員のやる気を引き出すと同時に、会社にも資金を確実に残すことができます。
2・少し頑張れば達成できる、ほどよい基準を
成果分配システムを運営するポイントは「1人当たり生産性(営業利益)の基準をどこに置くか」です。
当社では1人当たり営業利益を基準としていますが、そのほかにも「必要キャッシュフロー(借入返済など)」を基準としたり、管理会計上で加算科目、減算項目を設定する方法もあります。
利益超過の基準となるバーが高すぎると、「そんなの無理だ」と社員がやる気を失ってしまいます。
最もいけないのは、制度が形骸化すること。
成果分配システムはあるけど、一度も成果が分配されたことがない、ということになれば、導入した意味がありません。
反対にバーが低すぎると、たいして頑張らなくても軽々クリアできるので、これもまたモチベーションを下げる結果となります。
ほどよい基準の設定ができるかどうかが肝となるのです。
「少し頑張れば成果分配がもらえる」といった、ほどよい基準を設定できれば、毎年それに見合う報酬を受け取ることができ、バーをクリアすることが快感になります。
そうなれば、社員も仕事にやりがいを持てますし、バーを少しずつ上げていくことによって会社の業績も伸びる。お互いにとってハッピーです。
3・一番辛い「制度があるのにもらえない」にならないような基準を
当社の場合、成果分配の基準となるバーは、各社・各部門の部門長や役員と協議して決めることになっていて、それぞれ異なります。
社員の年収と同じくらいの営業利益を出せるのが理想ではありますが、1人当たり営業利益100万円が世の中の一般的な基準とされているので、少なくとも「100万円より稼げる会社(事業)を目指そう」というのを原則としています。
だから、部門長が100万円より低い基準を提示してくることは基本的にありません。
当然、毎年業績を伸ばしていき、成果分配の基準も200万、300万円とアップしていければ、どんどんいい会社に成長し経営の基盤も安定していくことになります。
ひとつ留意すべき点を挙げると「少額でもいいので安定して成果分配を出す」ことが大切です。
まったく成果分配が出ないとモチベーションは上がりませんし、業績変動が激しい事業の場合、社員の努力とは裏腹に利益が上がらないこともあります。
これから成果分配システムを導入しようという会社であれば、少額でもいいので導入初年度からきちんと成果分配が出るような基準を設定することが大事です。
1人5万円でも成果分配がもらえれば、社員は「もっとたくさんもらおう」とやる気が湧いてきます。
制度があるのにもらえないのが、一番辛いのです。
4・新規事業はマイナスバーを設定することも
後出しジャンケンにならないようにすることも大切な留意点です。
予定していた利益額を超過した分のどれくらいが成果分配として還元されるのか、年度が始まるタイミングで発表しておく必要があります。
利益が出たあとで「本当の基準はこうだった」と後出しジャンケンをすれば、社員の信用を失うことになります。
ただし、新規事業を担当させるときは赤字計画の場合もあるので、期間限定でマイナスバーを設定することもあり得ます。
新規事業の担当になったがために給料が下がったということになれば、誰も新規事業に挑戦しようとは思わなくなるからです。
新規事業の担当者は当面、給与を下げないといった配慮も必要でしょう。
5.給与制度は「自主計画、自主管理、自主分配」で納得性を高める
このような成果分配の仕組みをうまくまわすためには、多角化経営を進める上で重要な「システム経営」が前提となります。
システム経営の特徴は、ひとことで言うと「全員参加」。
社員が自ら経営計画を作成し、業績管理を自分たちでまわし、そして成果分配も自分たちでルールを決めて実施する。
当社ではこれを「自主計画、自主管理、自主分配」と呼んでいるのですが、「自分たちのことは自分たちで決める」のが原則のシステム経営だからこそ、成果分配の納得性も高まります。
上層部から降ってきた経営計画にそって仕事をするのが当たり前の場合、営業利益の数字が悪くて成果分配が出なくても「経営計画が悪いから基準を達成できなかった」「成果分配をもらえないのは経営陣のせいだ」などと社員は文句を言いたくなるでしょう。
しかし、自分たちで経営計画を策定し、業績を管理し、この基準を超えれば成果分配がもらえると明確にしてからスタートすれば、たとえ基準として設定した利益額に達しなかったとしても納得できます。
評価の透明性は高ければ高いほど、社員の納得度も高くなります。
計画がこうだったから、数字が出ずに成果分配も少なかった。今度はこうすれば数字は上がり成果分配も多くなる、とオープンになっていれば、成果分配が期待より少なくても納得できますし、来年こそは成果分配を増やそうという意欲も湧いてきます。
誰かに評価されるのを待つよりも「これくらい頑張ればこれくらい給与が返ってくる」とわかっているほうが、そのレベルを目指して頑張ろうという気持ちになるはずです。
6.納得できる給与制度で、社員のモチベーションもアップ!
私もそうですが、経営者の中には「社員の評価をするのは気が重い」という人が多いのではないでしょうか。
なるべく公平に評価をしたいと思っていても、末端の社員まで目が行き届かないので、どうしてもストレスが溜まります。
多角化して従業員が多くなればなるほど、平等な評価ができなくなってしまう側面もあります。
社員の立場から平等に評価されていないと感じれば「結果的に社長の好き嫌いで決まるのだから」と、やる気を失わせてしまいます。
だからといって、なんとか平等な評価をしようとすれば、それに忙殺されて、本来の経営者の業務がおろそかになってしまうでしょう。
その点、「自主計画、自主管理、自主分配」のシステム経営であれば、評価や成果分配のやり方をシステム化でき、経営者は決裁するだけで済みます。負担が大きく軽減されるでしょう。
給与制度は会社・業界ごとに適したスタイルがありますし「多角化経営をしている企業はこうすべき」とは一概にはいえません。
しかし、成果分配の仕組みは、社員のモチベーションを上げるという意味では、非常に効果的だと実感しています。
ぜひ「システム経営」とセットで導入することを検討してみてください。多角化も進めやすくなるはずです。
ヤマチユナイテッドでは、このような会社経営のノウハウやミッションの導入方法などワークショップやセミナーなどのイベントを随時開催しています。
ぜひ経営の参考に、チェックしてみてください。
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Authorこの記事の著者
ヤマチ連邦多角化経営実践塾 塾長
山地 章夫
ヤマチユナイテッド代表。経営を楽しみ、社員700名、50事業・年商256億円の企業グループの舵を取る。本業を中心に事業を次々と立ち上げ、売上げを積み増す「連邦多角化経営」を実践。経営の安定化と人材育成を両立する独自の経営手法が、多くの中小企業経営者の注目を集める。