給与制度の設計ポイントを解説!肝となる「成果分配」の仕組みも確認
組織・給与制度

こんにちは、ヤマチユナイテッド代表の山地です。
多角化経営を実践していると、給与制度について「それぞれの企業・事業部の報酬はどのように決めているんですか?」「従業員の給与はどのように決めているんですか?」などといったご質問をいただくことがあります。
確かに事業が違えば給与のシステムも違いますし、業界の慣習も違います。
一律の基準を押しつければ、社員の間に不満がくすぶってしまうでしょう。
ヤマチユナイテッドが給与制度でモットーにしているのは「成果分配」。
今回は、給与制度の基本から、給与制度設計の流れについてわかりやすくご紹介します。
また、給与制度で大切となる「成果分配」について、ヤマチユナイテッドの実践例とあわせてご紹介しますので、ぜひご参考ください。
目次
- 給与制度の基本から確認!給与(賃金)を構成する要素と支払いの原則
- 給与制度・賞与制度・昇給制度の設計の流れやポイント
- 給与制度設計で大切な「成果分配」とは?ヤマチユナイテッドの実践例もご紹介
- 給与制度設計における成果分配の仕組みは「システム経営」が前提
- 給与制度の設計ポイントと成果分配の仕組みを確認しよう
給与制度の基本から確認!給与(賃金)を構成する要素と支払いの原則
給与制度は、企業が従業員に労働の対価として、どのような報酬を支払うかを定める制度のことです。
給与制度には、給与の形態(月給、年俸など)、計算方法(基本給、手当、賞与など)、支払いの基準(年齢、勤続年数、業績など)が含まれ、企業の経営方針や戦略などを考慮して決定されます。
また、給与制度の種類には、年功序列型、職務型、成果型(成果主義型)などがあります。
給与(賃金)を構成する要素
給与(賃金)を構成する要素は、主に以下の4つに分けられます。
- 基本給
- 手当(諸手当)
- 賞与
- 退職金
基本給
従業員のベースとなる賃金で、年齢、勤続年数、役職、職能、業績などに基づいて決定されます。
※企業によっては、基本給をさらに細分化し、「職務給」「資格給」などを設ける場合もあります。
手当(諸手当)
必要に応じて支給される賃金で、法定手当(残業手当、休日出勤手当、深夜業手当など)、企業独自の手当(通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当など)があります。
賞与
企業の業績や個人の評価に基づいて支給される一時的な報酬です。
賞与の支給額や回数は、企業によって異なる場合があります。
退職金
退職金は、従業員が退職する際に支給される報酬で、在籍年数や職務の貢献度に応じて決まります。
※退職金制度も、企業によって基準が異なります。
賃金支払いの5原則も確認
給与計算業務は、労働基準法 第24条に定められている「賃金支払いの5原則」に従って賃金を支払う必要があります。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
「賃金支払いの5原則」に違反した場合、労働基準法第120条に基づいて、30万円以下の罰金が科せられます。
参照:労働基準法 | e-Gov 法令検索、賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省
給与制度・賞与制度・昇給制度の設計の流れやポイント
給与制度・賞与制度・昇給制度の設計をスムーズに、かつ適切に進めるためには、基本的な流れとポイントを押さえておく必要があります。
給与制度設計の流れ
給与制度設計の基本的な流れは次の通りです。
- 企業の理念の確認
- 現行の給与制度(賃金制度)の課題を抽出
- 賃金ポリシー・等級制度の設計
- 導入時期の調整・従業員への周知
- 雇用契約書などの再締結
- 労働基準監督署への報告
上記の流れについて、詳しく解説します。
1.企業理念の確認
まずは企業が求める従業員像や働き方を明確にし、組織の方向性を確認します。
これにより、給与制度設計・賃金設計が企業のビジョンや目標に沿ったものとなるようにします。
2.現行の給与制度(賃金制度)の課題を抽出
現在の給与体系に潜む問題点や改善点を洗い出し、どこに課題があるのかを明確にしましょう。
そして、企業理念をもとに「成果」「勤続年数」「能力」など、何を基準に給与(賃金)を決定するか、企業の方針に合った等級制度を設計します。
3.賃金ポリシー・等級制度の設計
賃金ポリシーとは、企業の賃金に関する基本的な考え方や方針を示すものです。
賃金水準、賃金体系、昇給・賞与の決定基準などを具体的に定めることは、従業員に対する透明性を高め、納得を得やすくなることにもつながります。
また、等級制度とは、従業員の能力や職務内容を段階的に評価し、それぞれの等級に応じた給与(賃金)を設定する制度(仕組み)のこと。
等級制度を設計する際には、職務分析や職務評価を行い、各等級の定義や評価基準を明確にすることが重要なポイントです。
4.導入時期の調整・従業員への周知
給与制度・賃金制度を見直す際は、従業員の意見や反応を受け入れ、納得を得ることが重要です。
給与制度・賃金制度の変更は従業員の生活に大きな影響を与えるため、移行期間を十分に設け、従業員に新制度を説明する時間を確保しましょう。
従業員への周知をする際には、従業員向けに説明会や個別面談などを開催し、制度の目的や変更点を詳細に伝え、疑問や不安を解消することも大切です。
5.雇用契約書などの再締結
給与制度・賃金制度の変更により、雇用契約や労働条件通知書に差異が生じた場合、新しい契約内容を従業員と取り決め、雇用契約書の再締結をする必要があります。
変更内容について十分な説明を行い、従業員の理解と同意を得た上で、書面による合意を取りましょう。
6.労働基準監督署への報告
常時10人以上の労働者(従業員)を使用している企業などが就業規則を変更する際は、労働基準法第89条に基づき、労働基準監督署への届出が必要です。
法的な義務を守るためにも、必ず手続きを行いましょう。
給与制度・賃金制度の変更を届け出る際には、就業規則だけでなく、給与規程(賃金規程)などといった関連書類も提出する必要があります。
それぞれのステップで慎重に準備と調整を行い、従業員との信頼関係を築きながら給与制度の設計を進めることが大切です。
給与制度・賞与制度・昇給制度の設計ポイント
給与制度、賞与制度、昇給制度は、それぞれ密接に関連しています。
制度設計を行う際には、それぞれの制度の整合性やバランスを考慮することも重要だといえるでしょう。
また、制度設計後も、定期的な見直しや改善を行い、企業の状況や従業員のニーズに合わせて柔軟に対応することをおすすめいたします。
給与制度・賞与制度・昇給制度の設計のポイントをご説明します。
給与制度設計のポイント
ヤマチユナイテッドでは、給与制度のベースとなる等級は、どの企業・事業部にも同じものを落とし込んで統一しています。
しかし、多角化経営の場合、事業範囲がさまざまな業界・業種にわたっているため、それぞれの業界・業種の標準に合わせて賃金ベースやインセンティブ(歩合制)の有無などが異なります。
住宅部門であれば住宅業界の基準がありますし、介護部門であれば介護業界の基準があるので、それぞれの業界のベースに合わせています。
例えば、住宅関係の営業職はインセンティブがあるのが一般的なので、インセンティブの幅を大きくし、営業担当者の成績によって給与が大きく変動するような仕組みになっています。
業界によっては、危険な作業を伴う場合や特別な資格が必要な場合に、プラスアルファの特殊手当を支給することがあるため、各事業によってケース・バイ・ケースで対応が必要でしょう。
インセンティブの決め方については、下記コラムでご紹介していますので、あわせてご覧ください。
効果的なインセンティブの決め方とは?自主分配を導入するメリットも解説
賞与制度設計のポイント
給与制度の考え方については事業によりケース・バイ・ケースとお話ししましたが、ボーナスの考え方については共通しています。
ヤマチユナイテッドの場合、基本的には夏・冬の年2回、赤字でなければ支給されるのが原則です。
こうした賞与制度はごく一般的ですが、当社の給与制度で特徴的なのは、通常のボーナスとは別に、期末に「成果配分」という決算賞与がプラスされる点です。
成果分配は、業績の良い事業や部門は分配原資が大きく、ドカンと支払われるルールになっています。
「利益」に比例して大きな差が生じるため、個人レベルで何百万円も年収に差がつくことがあります。
ヤマチユナイテッドの成果配分の制度については、のちほど詳しくご紹介します。
賞与については下記コラムもあわせてご覧ください。
昇給制度設計のポイント
昇給制度を設計する上で重要となるのが「人材をどう成長させ、どう登用していくか」ということ。
さらに、「社員が昇進を目指したくなるような仕組みづくり、制度づくり」も大切です。
昇給の効果的なタイミングは、社員の離職が目立つ場合や採用がうまくいかない場合、人事制度の見直し時などです。
詳しくは下記コラムでご紹介していますので、あわせてご覧ください。
中小企業における昇進・昇給(賃上げ)のタイミングは?人材定着に結びつける方法も確認
給与制度設計で大切な「成果分配」とは?ヤマチユナイテッドの実践例もご紹介
ヤマチユナイテッドでは、給与制度の肝は「成果分配」だと考えています。
社員の生活を支えるための生活給(基本給)にあたる部分は、年功給(年功賃金)で毎年少しずつ上がっていき、役職がアップすればそれに合わせて給与額も大きく増えていきます。
これは、どの業界、どの会社でも採用されている一般的な給与体系でしょう。
ヤマチユナイテッドは、そうした普遍的な給与制度に「成果分配」という制度をプラスすることで、ヤマチ色を出しています。
この成果分配は20年近く前から導入している仕組みですが、多角化経営に不可欠な「システム経営」を実践していく上でも、肝となる大事な仕組みのひとつです。
「成果分配」とはどのような制度なのか、成果分配の仕組みと制度導入の際のポイントをご紹介しましょう。
ヤマチユナイテッドの「成果分配」の仕組みと制度導入の際のポイント
成果分配の制度を導入する際のポイントや注意すべき点など、当社の実践例をふまえながらご紹介します。
なお、今回のお話の中に出てくる「利益」とは、正確には生産性のことで「一人当たり営業利益」を基準としています。
したがって、少人数でたくさんの利益を出していれば、分配が多くなるというわけです。
モチベーションが上がる「バー」を設定する
ヤマチユナイテッドでは年度末決算の実績が、予定していた一人当たりの営業利益(生産性)を超過した分の20~30%を「成果分配」として部門に還元するルールを設けています。
例えば、目標とする一人当たり営業利益を100万円と決めた場合、その事業部に10人の従業員がいれば1,000万円の営業利益が基準(バー)となり、同時にそれが事業部の目標になります。
年度末、実際に2,000万円の営業利益が出たのなら、超過した1,000万円の20~30%、すなわち200~300万円を成果分配として10人のメンバーに分けるのです。
もちろん、単純に10等分ではなく、職階級ごとに分配します。
上位階級を100とした場合、その下の階級は50%、さらに下位職はその50%という具合に事前に分配比率を決めておき、その比率に応じて分配します。
つまり、部門長など責任の度合いが高い社員ほど、多くの成果分配を得られるという仕組みです。
このように、成果分配は「利益が一定額を超えたら出す」というものなので、社員のやる気を引き出すと同時に、会社にも資金を確実に残すことができます。
少し頑張れば達成できる、ほど良い基準を設ける
成果分配システムを運営するポイントは「一人当たり生産性(営業利益)の基準をどこに置くか」です。
ヤマチユナイテッドでは一人当たり営業利益を基準としていますが、そのほかにも「必要キャッシュフロー(借入返済など)」を基準としたり、管理会計上で加算科目、減算項目を設定する方法もあります。
利益超過の基準となるバーが高すぎると、「そんなの無理だ」と社員がやる気を失ってしまいます。
最もいけないのは、制度が形骸化すること。
「成果分配システムはあるけど、一度も成果が分配されたことがない」ということになれば、導入した意味がありません。
反対に利益超過の基準となるバーが低すぎると、たいして頑張らなくても軽々クリアできるので、これもまたモチベーションを下げる結果となります。
適切な基準の設定ができるかどうかが、制度の肝となるのです。
「少し頑張れば成果分配がもらえる」と感じられるような、ほど良い基準を設定できれば、毎年の目標達成意欲を高め、それに見合う報酬を受け取ることができ、バーをクリアすることが快感になります。
社員も仕事にやりがいを持てますし、バーを少しずつ上げていくことによって会社の業績も伸びる。
社員と会社、お互いにとってハッピーな結果となります。
一番辛い「制度があるのにもらえない」にならないような基準を設ける
ヤマチユナイテッドの場合、成果分配の基準となるバーは、各社・各部門の部門長や役員と協議して決めることになっていて、それぞれ異なります。
社員の年収と同じくらいの営業利益を出せるのが理想ではありますが、一人当たり営業利益100万円が世の中の一般的な基準とされているので、少なくとも「100万円より稼げる会社(事業)を目指そう」というのを原則としています。
そのため、部門長が100万円より低い基準を提示してくることは基本的にありません。
当然、毎年業績を伸ばしていき、成果分配の基準も200万、300万円とアップしていければ、どんどん良い会社に成長し経営の基盤も安定していくことになります。
ひとつ留意すべき点を挙げると「少額でも良いので、安定して成果分配を出す」ことが大切です。
成果分配が全くもらえない状況が続けば、社員のモチベーションは上がりませんし、業績変動が激しい事業の場合、社員の努力とは裏腹に利益が上がらないこともあります。
「これから成果分配システムを導入しよう」という会社であれば、少額でも良いので導入初年度からきちんと成果分配が出るような基準を設定することが大事です。
1人5万円でも成果分配がもらえれば、社員は「もっとたくさんもらおう」とやる気が湧いてきます。
成果分配の制度があるのにもらえないのが、社員にとって一番辛いのです。
「一人当たりの生産性を上げて利益を向上するには?ポイントやヤマチの事例も」もあわせてご確認ください。
新規事業はマイナスバーを設定する
成果分配として還元される割合(予定していた利益額を超過した分のどれくらいか)を、年度が始まるタイミングで発表しておく必要があります。
利益が出たあとで「本当の基準はこうだった」と後出しジャンケンをすれば、社員の信用を失うことになってしまいます。
ただし、新規事業を担当させるときは赤字計画の場合もあるので、成果分配の基準となるバーを期間限定でマイナスに設定することもあり得ます。
「新規事業の担当になったがために給料が下がった」ということになれば、誰も新規事業に挑戦しようとは思わなくなるからです。
そのため、「新規事業の担当者は当面給与を下げない」といった配慮も必要でしょう。
給与制度設計における成果分配の仕組みは「システム経営」が前提
成果分配の仕組みをうまく回すためには、多角化経営を進める上で重要な「システム経営」が前提となります。
システム経営の特徴は、ひとことで言うと「全員参加」。
社員が自ら経営計画を作成し、業績管理を自分たちで回し、そして成果分配も自分たちでルールを決めて実施する。
ヤマチユナイテッドではこれを「自主計画、自主管理、自主分配」と呼んでいるのですが、「自分たちのことは自分たちで決める」のが原則のシステム経営だからこそ、成果分配の納得性も高まります。
上層部から降ってきた経営計画にそって仕事をするのが当たり前の場合、営業利益の数字が悪くて成果分配が出なくても「経営計画が悪いから基準を達成できなかった」「成果分配をもらえないのは経営陣のせいだ」などと社員は文句を言いたくなるでしょう。
しかし、社員が自分たちで経営計画を策定し、業績を管理し、この基準を超えれば成果分配がもらえると明確にしてからスタートすれば、たとえ基準として設定した利益額に達しなかったとしても、その結果に納得できます。
評価の透明性は高ければ高いほど、社員の納得度も高くなるでしょう。
「計画がこうだったから、数字が出ずに成果分配も少なかった」「今度はこうすれば数字は上がり成果分配も多くなる」と、経営計画の内容や実績がオープンになっていれば、成果分配が期待より少なくても納得できますし、来年こそは成果分配を増やそうという意欲も湧いてきます。
誰かに評価されるのを待つよりも「これくらい頑張ればこれくらい給与が増える」とわかっているほうが、そのレベルを目指して頑張ろうという気持ちになるはずです。
給与制度の設計ポイントと成果分配の仕組みを確認しよう
給与制度とは、企業が従業員に労働の対価として、どのような報酬を支払うかを定める制度であり、基本給、手当、賞与、退職金などの要素で構成されます。
給与制度には、年功序列型、職務型、成果型(成果主義型)といった種類があります。
給与制度設計の基本的な流れも確認しておきましょう。
- 企業の理念の確認
- 現行の給与制度(賃金制度)の課題を抽出
- 賃金ポリシー・等級制度の設計
- 導入時期の調整・従業員への周知
- 雇用契約書などの再締結
- 労働基準監督署への報告
給与制度を設計する前に企業理念を確認し、現行制度に潜む問題点や改善点を洗い出します。
それから、企業理念をもとに何を基準に賃金を決定するか、企業の方針に合った等級制度を設計すると良いでしょう。
ヤマチユナイテッドは、給与制度設計の肝は「成果分配」だと考えています。
「利益が一定額を超えたら出す」という業績に基づく報酬配分を行うことで、社員のやる気を引き出すと同時に、会社にも資金を確実に残すことができます。
業績が上がればその分配も増加し、社員は達成感を得ることができるのです。
多角化経営に不可欠な「システム経営」を実践していく上でも、成果分配は大事な仕組みだといえます。
ただし、給与制度は会社・業界ごとに適したスタイルがありますし「多角化経営をしている企業はこうすべき」とは一概にはいえません。
しかし、成果分配の仕組みは、社員のモチベーションを上げるという意味では、非常に効果的だと実感しています。
ぜひ「システム経営」とセットで導入することを検討してみてください。
多角化も進めやすくなるはずです。
ヤマチユナイテッドでは、企業経営に役立つ経営セミナー、ワークショップなどのイベントを随時開催していますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
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Authorこの記事の著者

ヤマチ連邦多角化経営実践塾 塾長
山地 章夫
ヤマチユナイテッド代表。経営を楽しみ、社員700名、50事業・年商256億円の企業グループの舵を取る。本業を中心に事業を次々と立ち上げ、売上げを積み増す「連邦多角化経営」を実践。経営の安定化と人材育成を両立する独自の経営手法が、多くの中小企業経営者の注目を集める。