分社化が進んだ中堅企業の行き詰まりを打破!ヤマチの連邦経営「第7ステージ」組織体制の全貌
組織・給与制度

こんにちは。ヤマチユナイテッドの石崎です。
事業の多角化や分社化を進めてきたものの、「各社の連携が取りづらくなった」「人材の流動性が思ったよりない」「管理部門が重複していて非効率」といった悩みを抱えていませんか?
これは、分業化や分社化が進んだ企業が陥りがちな「組織の硬直化」という課題です。
今回のコラムでは、このステージの企業が抱える課題と、その打開策としてヤマチユナイテッドが実践している組織体制の「第7ステージ」について詳しくご紹介します。
部分最適から全体最適へ、組織を進化させるヒントになれば幸いです。
目次
- なぜ今、業務の「分業化」が限界を迎えているのか?
- 分社化が進んだ中堅企業の行き詰まりを突破する、ヤマチの連邦経営「第7ステージ」とは?
- ヤマチグループが挑戦する「第7ステージ」組織体制の全貌
- 分社化が進んだ企業の柔軟性と機動⼒を両⽴するために、組織体制をさらに進化させよう
なぜ今、業務の「分業化」が限界を迎えているのか?
企業が拡大する過程で、最適な組織のあり方は段階的に変化していきます。
創業期からある程度の規模までは、社長の「トップダウン型マネジメント」が最も効果的です。
スタートアップが一気に成長する局面では、トップの牽引力と意思決定の速さが成功を左右します。
しかし、会社の規模が大きくなって社員数が増えてくると、社長一人では全員を統率できません。
中間管理職を置き、事業部制を導入して分業化し、さらには法人を分けて分社化を進めていく。
これは自然な流れであり、必要なプロセスです。
事業部制や分社化を進めることにより、各事業特性に合わせた組織運営ができ、現場に即した意思決定がスピーディーに行えるようになります。
さらに、総務や経理などの管理部門も、各事業の実情を理解した担当者が近くにいることで、業務がスムーズに進みます。
分業化・分社化が生む「見えない壁」
しかし、この分業化・分社化が進むと、新たな弊害が表面化してきます。
各事業・法人の「独自色」が強まり、全体の統制が難しくなってしまうのです。
縦割り化による連携の希薄化
部門や法人ごとに独自の方法で業務を進めるため、横のつながりが希薄になります。
それぞれの連携が希薄になり、「他部門のことはわからない」「自分たちの領域のことしか考えない」という状況に陥りがちです。
本部機能の重複による非効率
経理・総務・人事・マーケティングなど、同じ機能を持つ部門が各社に存在し、結果的にノウハウや知見が分散してしまいます。
グループ全体で見ると、同様の業務を複数の部門が並行して行なっている非効率な状態が生まれるのです。
人材の流動性不足
「優秀な人材を自社から引き抜かれたくない」という心理が働き、結果として組織全体での人材活用が硬直化します。
事業スピードの遅れ
独立採算制が強まると、各部門は自部門の利益最大化に集中しがちです。
その結果、グループ全体の視点が薄れ、新規事業の立ち上げや展開のスピードが鈍化してしまいます。
「部分最適」から「全体最適」への転換が必要なタイミング
これらは、事業多角化・分社化を進めた企業が必ず直面する課題です。
各部門が「部分最適」を追求した結果、組織全体が硬直化し、経営資源(人・物・金・情報)を柔軟に活用できなくなってしまいます。
システムの統一や業務プロセスの標準化を進めようとしても、「現場の理論」と「本部の理論」が対立し、調整に膨大な時間が割かれます。
こうした状況は、企業が次のステージに進むためのシグナルです。
分業による効率性を維持しつつ、グループとしての一体感と機動力を取り戻す。
つまり、「部分最適」から「全体最適」に向けた経営の再構築が必要なタイミングに来ているのです。
分社化が進んだ中堅企業の行き詰まりを突破する、ヤマチの連邦経営「第7ステージ」とは?

では、分業化・分社化の限界をどう突破すれば良いのでしょうか?
ヤマチユナイテッドが実践する連邦経営「第7ステージ」の組織体制が、その答えを示しています。
まずは、これまでの組織進化の過程を振り返りながら、第7ステージの概念を解説します。
企業成長のステージと組織体制の進化
企業の成長に応じて、適切な組織体制は変化します。
ヤマチユナイテッドでは、これまで以下の段階を経て、組織を進化させてきました。
第1段階:機能別組織
創業期には、社長と機能別の部署(営業・製造・管理など)で構成される組織からスタートします。
第2段階:事業別組織
事業が複数になると、事業部別に組織を分け、それぞれに事業部責任者を配置し、管理部門を設置します。
第3段階:事業部別の分社化
事業部が成熟し、独立採算で運営できるようになったタイミングで法人を分けます。
(分社の必要に応じて)
第4段階:ホールディング経営体制
分社化した事業会社を統括するため、持株会社(ホールディングス)を設立し、グループ経営の体制を整えます。
第5段階:グループ経営推進会議の設置
「グループ経営推進会議」など、横断的な会議体を設置してグループ全体の統制を図ります。
第6段階:グループ横断型組織
グループ管理部門を設置し、役員委員会や管理部門長会議などを通じて全体統制を強化します。
ただし、この段階では、各社に管理部門が残されているのが現状です。
ヤマチユナイテッドの連邦経営については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
分社化のメリットを活かしデメリットを補う連邦経営とは?《連邦・多角化経営概論》第3回
中小企業はなぜ多角化すべきか?ヤマチの事例に学ぶ成長戦略のヒント
第6段階までの組織編成や、分社化のメリット・デメリットについてより深く知りたい方はぜひご覧ください。
次なる進化「第7ステージ」の概念
第7ステージは、これまでの連邦経営をさらに進化させた組織体制です。
その核心は、第6段階までは各社に設置していた管理部門・マーケティング部門・採用部門・企画部門などを、グループ本部に物理的に統合することにあります。
<統合の目的>
- 全体のノウハウ集約と知見共有
- 業務効率化とコスト削減
- 経営資源の柔軟配分
- 新規事業展開を支える体制強化
これにより、各社の経理・総務・労務・システム管理をグループ本部で一元管理し、法人や事業部ごとの属人化・重複・非効率を解消します。
第6段階までの横断連携は「実行ベース」、すなわち各社の責任者同士で調整する形でした。
これを「機能ベース」に進化させ、法人格は別でも、経営管理を一体化するのが第7ステージの本質です。
ヤマチグループが挑戦する「第7ステージ」組織体制の全貌
ここでは、実際にヤマチユナイテッドがどのように「第7ステージ」を実現したのか、その全貌を紹介します。
ヤマチユナイテッドの現状と再編の背景
ヤマチユナイテッドグループは現在、グループ会社は9社、カンパニー数は約40(事業単位)、社員数はグループ計800名超の規模で事業を展開しています。※2025年10月時点
これまでも横の連携を取りつつ運営してきましたが、各社・各事業に管理部門やマーケティング担当者が配置されており、ノウハウや知見が分散している状態でした(第6段階)。
今後さらに事業開発を加速し、新規事業にも積極的に挑戦していくためには、より強固な本部機能が必要だと判断。
部分最適を重視してきた組織から、グループ全体最適をより追求できる組織へ移行し、散在していた機能を集約するフェーズに入ったのです。
グループ本部の設置と統合
2025年春、ホールディングス会社であるヤマチ・ユナイテッド内に「グループ本部」を正式に設置。
これまでバーチャル組織として機能していたグループ管理会社「ヤマチマネジメント」の機能を、物理的な組織として統合しました。
各社に所属していた担当者はホールディングス会社に転籍し、グループ本部の一員として再編しています。
グループ本部の組織構成
新設されたグループ本部は、次の4本部で構成されています。
- グループ経営戦略本部:経営計画策定・仕組みづくり
- 新規事業開発本部:「100ビジョン」達成に向け新規事業推進
- グループマーケティング本部:全体戦略・ブランディング・事業支援
- グループ管理本部:経理・総務・労務・システム・財務・HRDを統括
現在、グループ本部スタッフは50名弱が所属し、全体の約5%という規模です。
組織構成の大きな特徴は、「出向」ではなく「転籍」で統合した点です。
従来のバーチャルな組織ではなく、リアルにホールディングス会社に転籍することで、所属意識と責任の所在を明確にしました。
ただし、物理的な勤務場所は、担当する事業会社に席を置いているケースもあります。
「○○社担当」「○○事業担当」という形で、現場に近い場所で業務を遂行しつつ、組織としてはグループ本部に所属するという体制です。
システムの統一化
組織再編にあわせ、会計・人事・勤怠・決裁システムの統一も進めています。
これまでは、各社が業種や働き方の違いに応じて最適なものを選択していましたが、グループ全体での効率化を考えると、ある程度の統一は不可欠です。
顧客対応ツールや業種特化システムなど、必要な個別ツールは尊重し、効率化と柔軟性を両立させています。
第7ステージ移行で実現した5つの成果
第7ステージへの移行後、さまざまな成果が生まれています。
①知見の集結とノウハウ共有
最大の成果は、各社に散らばっていた知識・経験が一カ所に集約されたことです。
これにより、経理・総務・人事などのバックオフィス業務において、ベストプラクティスが明確化され、全社的に横展開できるようになりました。
かつては乏しかった他領域への理解も、グループ本部で全事業の情報を把握できるように。
埋もれていた成功事例も、グループ全体の資産として活用されています。
特にマーケティング部門では顕著です。
BtoB系のマーケターとBtoC系のマーケターが同じ組織にいることで、使っているツール、成功事例、分析手法を全て共有できます。
業種が違っても共通する部分は多く、視野が広がることで担当者のスキルが大幅に底上げされています。
②人材活用の柔軟性向上
管理部門がグループ本部として統合したことで、担当変更も「A社担当からB社担当へ」という変更で済むため、組織としての抵抗感も少なく、人材配置の柔軟性が高まりました。
また、新規事業が立ち上がった際にも、グループ本部から担当者をアサインできます。
適性や強みに応じて担当を変更したり補完したりできるため、組織全体で最適な人材活用が実現しています。
③業務効率化と経費削減
機能統合により業務の分担と協力体制が明確になり、事業拡大時も必要以上に人員を増やさず対応できるようになりました。
従来は「事業が増える=管理部門の増員が必要」という発想でしたが、今はそれが不要に。
今後、事業部が増えたり、扱う領域が広がったりしても、既存メンバーで分散して対応できる体制となっています。
④調整業務の効率化
意思決定と指示命令系統が一本化され、調整作業が格段にスムーズになりました。
例えば、新たなシステムや方針を導入したいという場合、以前は各社ごとに説明や交渉を重ねる必要があり、時には「うちは今までこのやり方でやってきたから」という抵抗にあうことも少なくありませんでした。
しかし、現在は本部長の指示で全体に一斉展開できます。
その結果、横の調整にかかる時間と労力が大幅に削減されました。
⑤情報の集約と迅速な意思決定
各社から分散していた情報が一本化され、経営層が必要なデータを即座に把握できるようになりました。
情報の集約により、役員やトップは迷いなく判断を下せるようになり、意思決定のスピードと質が大きく向上しています。
スムーズな移行を可能にした連邦経営の土台
組織再編をスムーズに進めるには、現場の抵抗を最小限に抑えることが重要です。
ヤマチユナイテッドが第7ステージへスムーズに移行できた最大の要因は、連邦経営の考え方が組織に浸透していたことです。
もし、各社に社長を外部から招き入れ、バラバラに経営していたとしたら、「本部に統合する」という方針に強い反発が生まれたでしょう。
しかし当社では、分社化を進める一方で、常にグループ全体としての一体感を保つ「連邦経営」を実践してきました。
横断型会議体を設置し、グループ全体の方向性や価値観を共有し続け、グループ全体の視点で経営を進める土壌を作ってきました。
この連邦経営という土台があったからこそ、組織変更への理解と協力が得られ、第7ステージへのスムーズな進化が実現したのです。
分社化が進んだ企業の柔軟性と機動⼒を両⽴するために、組織体制をさらに進化させよう
業務の分業化・分社化は、企業成長の過程で必要なステップです。
しかし、分業化が進みすぎると組織は硬直化し、全体最適が損なわれていきます。
ヤマチユナイテッドが実践する「第7ステージ」は、分社化のメリット(現場の裁量・スピード感)を生かしながら、管理機能を本部に統合することで全体最適も追及する仕組みです。
これにより、ノウハウの集約、人材の柔軟な配置、業務効率化、経費削減を実現し、新規事業展開にも迅速に対応できる組織体制を構築しました。
企業規模が拡大し、事業が多角化し、組織が複雑化してきた今こそ、「部分最適」から「全体最適」へ、「分散」から「統合」へ進化させるタイミングです。
ただし、この転換をスムーズに進めるには、日頃からグループ全体の視点で経営を進める「連邦経営」の考え方が土台として必要になります。
この理念があってこそ、統合による相乗効果が生まれ、個社の強みを活かしながら全体で成長する経営が可能になります。
ヤマチユナイテッドの事例が、同じように分社化を進めている企業や、組織体制を再構築しようとする皆さまのきっかけになれば幸いです。
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Authorこの記事の著者
株式会社ヤマチマネジメント|取締役 |グループ執行役員
石崎 貴秀
1996年入社。営業課から国際課を経て、総務部チームリーダーへ。その後グループ経営推進会議事務局にて経験を積み、2009年(株)ヤマチマネジメントを設立、移籍。グループ管理本部の統括マネージャーとして采配を振るう。2017年(株)ヤマチマネジメント取締役就任。
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「連邦・多角化経営実践塾」の開塾にも携わり、2014年以降、第1期~現在までシステム経営のメイン講師として活躍。
入塾した企業約70社にシステム経営を指導してきた。現在はシステム経営のコンサルティングも担当。

