分社化のメリットを活かしデメリットを補う連邦経営とは?《連邦・多角化経営概論》第3回
多角化・新規事業
こんにちは、ヤマチユナイテッドの山地です。
会社を拡大させ、社員を成長させる「連邦・多角化経営」を導入するには、「連邦経営」が欠かせません。
連邦経営は分社化と似ていますが、異なる仕組みです。
今回は、当社が提唱する「連邦経営」とはどんな経営手法なのか?
分社化のメリットやデメリットに対し、連邦経営のメリットや、連邦化するための6つのステップなどについてお伝えしていきます。
目次
- 連邦経営とは?分社化との違い
- 分社化のデメリットを補う「連邦経営」のメリット
- 分社化を経て連邦経営に至るまでの6つのステップ
- 連邦経営を成功させるには全社員が一度に集まる機会も重要
- 連邦経営で分社化のデメリットを解消して多角化を目指そう
1.連邦経営とは?分社化との違い
まずは連邦経営とは何なのか、分社化とはどう違うのかを見ていきましょう。
私が連邦経営に踏み出したきっかけもお話しします。
連邦経営とは?
連邦経営とは、それぞれの事業を分社化し、事業責任者に権限を委譲した上で、横の連携を強化してグループ全体をひとつの企業のように運営することです。
「ヤマチユナイテッドの『ユナイテッド』とはどんな意味ですか?」と尋ねられることがあります。
Unitedとは「結合した」「協力した」「ひとつになった」という意味の形容詞。
アメリカ合衆国は英語ではUSA(ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ)と表現されます。
アメリカでは州ごとにそれぞれ独自の法律があっても、ひとつの国として機能しています。
私たちヤマチユナイテッドもそれと同じ。
50を超える事業や子会社の多くは独立採算制でも、グループ全体をひとつの組織とみなして統制しています。
こうした仕組みを私は「連邦経営」と呼んでいます。
連邦経営とは、分社化のことではないか?と思った方もいるかもしれません。
しかし「連邦化」はイコール「分社化」ではありません。
次で詳しく解説していきます。
分社化とは?メリット・デメリット、連邦経営との違い
分社化とは、親会社の事業内容の一部を切り分け100%出資し、独立した子会社を設立することです。
分社化するメリットは、それぞれの事業の成果が明確になることや、経営上のリスクを分散させられること、節税効果が得られることなどが挙げられます。
分社化をするデメリットは、親会社との距離が生まれ、縦割りのセクト主義に陥る可能性があるという点です。
セクト主義とは、組織体の内部で自分の属する部門にこもり排他的になる傾向のことです。
子会社が独立採算で運営するようになると、それぞれの事業の縦割り化が顕著になり、「自分たちの事業部がうまくいけば良い」と考える社員が多くなってしまうことも。
縦割り化の関係だと、グループとしての相乗効果は発揮できません。
このような分社化のデメリットを補うことができるのが「連邦経営」です。
連邦経営では、横の連携を強化しグループ全体をひとつの企業のように運営します。
ヤマチユナイテッドが連邦経営に踏み出したきっかけ
「連邦経営をする」と決断したきっかけについてお話ししましょう。
これは私が経験して学んだことですが、社長がひとりで複数の会社や事業を統制するのは、とてつもなく困難なことです。
なにか問題が起こるたびに、自ら火消しに奔走し、収束するころには、別の事業で経営課題が出てくる。
まるで、もぐら叩きゲームのような忙しさでした。
これでは大局的な見地から経営戦略を考えるという、社長本来の仕事は十分にできません。
ですから、私はまず幹部を「事業責任者」として育て、それぞれの事業がお互いに助け合える組織を築きたいと考えました。
そこで「グループ全体が大きなひとつの会社である」と宣言。
100の事業を立ち上げて100人の事業責任者を生み出すという、「THE 100 VISION」というグループビジョンを提示して、連邦経営につながる取り組みを始めたのです。
2.分社化のデメリットを補う「連邦経営」のメリット
連邦経営のメリットについて、さらに詳しく見ていきましょう。
社員が連携して相乗効果を生み出せる
連邦経営の最も大きなメリットは、多角化が進んで子会社や事業が増えても、縦割りのセクト主義に陥ることがないという点です。
分社化するだけだと、それぞれの事業の縦割り化が進み、社員は自分たちの事業部の業績しか見なくなってしまいます。
一方、複数の会社や事業をひとつの会社のように運営する連邦経営なら、「自分たちだけが良くてもダメだ」と、連帯責任の感覚を持つ幹部が増えます。
困ったときはお互いに知恵を出し合って助け合うようになり、グループとしての相乗効果を発揮できるようになるのです。
資本と経営を分離できる
資本と経営を分離できることも大きなメリットです。
当社では、ホールディング会社(持ち株会社)の「山地ユナイテッド(株)」が、各事業会社の株式を100%保有する持ち株制で運営されています。
私自身は基本的には山地ユナイテッド(株)の社長で、オーナーの立場。
事業会社の経営は基本的に幹部に任せています。
そして、各子会社は資本金の最低10%程度を配当として、株主である山地ユナイテッド(株)に還元することになっています。
ホールディング会社はこの配当金収入から、子会社への出資や支援をするルールです。
こうして資本と経営をはっきり分けることによって「親会社がなんとかしてくれる」というような甘えはなくなります。
また、株式をホールディング会社にまとめておけば、後々の事業承継もスムーズに進めることができるでしょう。
3.分社化を経て連邦経営に至るまでの6つのステップ
もちろん私も一朝一夕に、連邦経営を実現できたわけではありません。
ここでは当社がたどってきたプロセスを、6つのステップに分けて説明しましょう。
◎第1段階/機能別組織
事業がひとつの企業の場合、「営業」「購買」「業務」「工事」「製造」「管理」などの機能で部署を分けるのが一般的です。
この状態では経営判断はトップに集中してしまうため、どうしてもトップダウン型の経営になってしまいます。
◎第2段階/事業別組織
事業収益単位をA事業部、B事業部といくつかに分割して、その責任者に権限を委譲する経営形態です。
事業責任者の下に「営業」「業務」「工事」など必要な機能に合わせて部署を分けます。
それぞれの事業部長に権限を与えるのが、多角化経営の第一歩です。
◎第3段階/事業部別の分社化
各事業部を組織から切り分けて、独立子会社を設立する方法です。
これがいわゆる分社化にあたります。
独立採算で経営数値が明らかになるため、各事業の責任が明確になるほか、どこに問題があるかもタイムリーに把握できるようになります。
一方で、組織の縦割り化が進んでしまうという課題がありますが、このデメリットを補うために次からの段階で連邦化を進めていきます。
◎第4段階/ホールディング経営体制
傘下にある会社の株式を保有するホールディング会社(持ち株会社)をつくり、グループ各社の事業活動を管理します。
まずはホールディング会社をつくることがスタートになります。
◎第5段階/グループ経営推進会議の設置
グループ各社の役員、事業責任者など経営幹部が出席する「グループ経営推進会議」を設けて、会社間に横のつながりをつくります。
いわば縦割りのグループに横串を刺す仕組みです。
トップは複数の子会社の経営会議をはしごする必要がなくなり、時間の余裕ができます。
◎第6段階/グループ横断型組織
「グループ経営推進会議」から一歩進め、縦・横・斜めのコミュニケーションを促し、さらに高いレベルでの連邦化を図った組織体系です。
具体的な手法でいうと「グループ役員会」「グループ経営会議」「グループ管理本部」などの設置、全社横断型の「委員会・プロジェクト」の組織化などがあげられます。
事業をまたいで行う委員会活動については「会社での委員会の役割。社内で委員会活動を行う3つのメリットとは?」を参考にしてみてください。
もちろん、私たちが行っている組織図は最終形ではありません。
現在も、グループの成長に合わせてどんどん変化しています。
最近ではグループを横断して事業領域ごとにまとめ、業務の効率化や新規事業アイデアを出し合うユニットをつくっています。
グループ内の人とアイデアの行き来を活性化させる取り組みです。
このように連邦経営の体制を活用して、多角化のメリットを最大限に引き出せるよう自社に合った取り組みをするのも良いでしょう。
4.連邦経営を成功させるには全社員が一度に集まる機会も重要
当社の経営形態は、現在「第6段階のステージ」にいますが、連邦経営を実践するうえで欠かせない行事として位置づけているのが「グループキックオフ」です。
グループの全従業員600人以上が一堂に集まる重要な機会として、年度末にあたる2月末に行っています。
内容は、トップによる経営方針の説明から、グループ経営戦略の発表、各社・各事業部の来年度の経営計画発表、成績優秀者の表彰、委員会活動の成果発表まで盛りだくさん。
さすがに全従業員が700人を超えると、互いに知らない社員も増えます。
「うちの会社はこんな事業も手掛けているのか」
「○○さんはすごい頑張っているな」など
社員間の情報共有やモチベーションアップにつなげてほしいと考えています。
ちなみに、キックオフの会場では、全社員が並んで集合写真を撮影するのが恒例行事。
この記事の冒頭にキックオフの写真を掲載しましたが、毎年人数が増えていくのを実感でき、経営者にとってはこのうえなく幸せな瞬間です。
5.連邦経営で分社化のデメリットを解消して多角化を目指そう
連邦経営とは、それぞれの事業を分社化して事業責任者に権限を委譲した上で、横の連携を強化してグループ全体をひとつの企業のように運営すること。
分社化のデメリットである各事業の縦割り化を阻止し、グループとしての相乗効果を最大限発揮できるようにする仕組みです。
連邦化を進めることで、それぞれの事業を横断して社員が連携することができるようになり、資本と経営を分離できるようになります。
あなたの会社でこの先、事業の多角化が進むようなら、連邦経営への6つのステップに取り組んでみてはいかがでしょうか。
シリーズ《連邦・多角化経営概論》では、連邦・多角化経営の仕組みを全3回にわたって解説。
ヤマチユナイテッドが実践する100VISION経営、さらに連邦・多角化経営の全容を知りたい方は、まずこちらのシリーズからご覧ください。
第3回:分社化のメリットを活かしデメリットを補う連邦経営とは?(このコラム)
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Authorこの記事の著者
ヤマチ連邦多角化経営実践塾 塾長
山地 章夫
ヤマチユナイテッド代表。経営を楽しみ、社員700名、50事業・年商256億円の企業グループの舵を取る。本業を中心に事業を次々と立ち上げ、売上げを積み増す「連邦多角化経営」を実践。経営の安定化と人材育成を両立する独自の経営手法が、多くの中小企業経営者の注目を集める。