縦割り組織のデメリットを改善!セクト主義を防ぐ多角化企業の運営体制

組織・給与制度

石崎 貴秀
石崎 貴秀

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こんにちは、ヤマチユナイテッドの石崎です。

今の時代、新規事業を増やしながら事業を多角化していくことは、中小・中堅企業が成長していくために必要な1つの方法だと考えています。

しかし、事業部や法人の数も増えて多角化企業になると、組織が縦割りになり、ともすればセクト主義に陥る恐れも出てきます。

今回は、縦割り組織のデメリットを改善する連邦経営の導入方法や、グループマネジメント体制についてご紹介。

今まさに事業の多角化を進めている皆さんはもちろん、これから多角化企業を目指す皆さんにおいても、今回のコラムにはぜひ目を通していただきたいところです。

目次

  1. 縦割り組織のデメリットや課題
  2. 連邦経営の導入で縦割り組織のデメリットを改善!柔軟な組織連携を実現するには?
  3. グループ全体を統括する運営体制の構築
  4. 「連邦経営」の導入で縦割り組織のデメリットを改善しよう

縦割り組織のデメリットや課題

事業の多角化が進んでいくと、どんなに優れた経営者でも一人で何もかも行なっていくことが時間的にも体力的にもできなくなります。体は一つですから。

そこで各事業部、または各法人ごとに業績責任を持たせるようにするのですが、これ自体は良いことであっても、業績責任だけ追求しすぎると自ずと「縦割り組織」になってしまいます。

縦割り組織の何が良くないかというと、事業部同士、法人同士の協力関係が築けない、他の事業部、他の法人のサポートに回るという意識が生まれない、つまり無関心になりやすいこと。

これではいくら多くの事業を立ち上げようが、多角化経営のメリットであるシナジー効果を得ることができません。

言ってみれば「経営資源の全体最適化」が損なわれてしまう、これが最大のデメリットだと思います。

多角化のパターンとして、「法人の中で事業部を分けて各部に責任者を置くケース」「事業部が育ってきた、あるいは異業種である際に法人として分けるケース」があり、後者では新たな社長ないし事業責任者を置くか、経営者自ら社長を兼任するかということになると思います。

あとはM&Aなどによって他社を買収した際に、元々の社長にそのまま任せることもあるでしょう。

先述のように、事業が増えれば増えるほど経営者自らすべてに目配りをすることが困難になっていきますから、どこかで「任せる」という判断をすることになるのですが、一番まずいのは「好きなようにやりなさい」と任せっぱなしにすることです。

特にM&Aで自社にノウハウのない業種が入ってきた場合は、「わかる人がやったほうが良い」と任せっぱなしになりやすいですね。

いずれにしても、事業が増えれば売上も増えますが、経営という意味ではもう丸投げして全部やってもらっているという環境になってしまうのです。

そうなると横の連携は非常に取りづらくなりますし、そもそも方針として「グループ全体で良くならないと」という全体最適の考え方がない状態で多角化を進めていったり、組織の設計をしてしまったりすると結果的に縦割りになるのも無理はないと思います。

任せっぱなしにしたことにより横の連携が取れず、シナジー効果を生み出せない関係性の中では、その事業自体、任せた担当責任者の能力以上の事業にならないというデメリットもあるんですよ。

当然、各事業部の役職者、各法人の上層部が「協力の必要なし」と思っていれば、部下たちも同じ気持ちになって、「他の事業部の成長は自分達には関係ない」「自分の所属する事業だけが業績や評価が良ければ良い」「目の前にある仕事にだけ取り組んでいれば良い」と思ってしまうでしょう。

このようなことを防ぐために、グループ全体を一つの会社として同じ目標に取り組むグループ経営、そしてその横の連携を繋いでいく「連邦経営」が必要となりますし、「グループ全体最適を目指すのだ」という、そもそもの経営方針を打ち出すことが重要であると考えるのです。

中小企業における多角化の重要性については、こちらのコラムをご覧ください。
中小企業の活路は多角化戦略にあり 《連邦・多角化経営概論》第1回

連邦経営の導入で縦割り組織のデメリットを改善!柔軟な組織連携を実現するには?

連邦経営とは、多角化した事業部や分社化した法人、もしくは持株会社と資本関係にある各関係会社全体を一つの組織体とみなして、グループ全体が効率的かつ効果的に運営されるように統制管理すること。

幹部主導、社員全員参加型の「システム経営」は、ヤマチユナイテッドが採用する経営手法の一つです。

うちではこれをベースにしながら連邦経営を実践することで組織に横串を刺し、柔軟かつしなやかな組織づくりを行なっています。

さらに、連邦経営によって縦横のみならず、斜めのコミュニケーションが円滑になるので、複数法人、複数事業をよりシームレスに連携させることが可能となり、グループオールで利益を追求する体制を整えています。

縦横斜めの連携がシナジーを生む!オンライン朝会がグループ経営の連携を強化」も、あわせてご確認ください。

ヤマチユナイテッドの連邦経営システム

当社の連邦経営システムの考え方を体系化した図がこちらです。

Federal-Management-System.jpg

連邦経営を実践するためには、

「A:ビジョン」

  ↓

「B:経営方針・戦略」

  ↓

「C:経営計画・組織」

  ↓

「D:運営システム」と、上から順番に一つひとつ整えていく必要があります。

一度に完璧に作るのは難しいですが、前の項目で説明したように、まずは上位方針としてグループ共通ビジョンを作ることが最優先。

そして、そもそも何のためにグループ経営をするのかというところで、その目的や得たいと思う結果、戦略の中身がどういうことなのかなどをきちんと整理しておくこと。

例えば当グループの場合、「北海道から世界を変えていく」というグループ共通パーパス、「THE 100VISION」というグループ共通ミッションを定め、これを経営計画書に明記して毎年の経営計画発表会で再確認し、グループ合算中長期計画を策定しています。

グループ合算中長期計画も経営計画書に盛り込まれており、グループとして、全体としてどうなりたいのかという共通認識を社員一人ひとりがしっかり持てるようにしています。

ヤマチユナイテッドが連邦経営を実践する目的

ヤマチユナイテッドが連邦経営を実践する目的を10箇条にまとめました。

1.変化への対応と事業のリスク分散

  • 一つの事業の業績が振るわなくても他でカバーすることができる
  • 単一事業による業績悪化リスクを複数事業を展開することで回避できる
  • 柔軟な組織経営が可能となる

2.シナジー効果の追求による収益力の向上

  • 良い意味での競争意識を喚起しながらも、グループ全体の利益追求という観点では他の事業部・他の法人と連帯責任を負わせることで相互協力や支援に回る意識を育て、点と点を線にして多角化の加速が見込まれる

3.経営資源の効率的運用、人材資源の有効活用による組織力の効果

  • ヒト・モノ・カネ・情報の全体最適活用ができる
  • グループ横断プロジェクトや委員会を通じて社内コミュニケーションが活性化する

4.経営幹部の育成促進

  • 事業部や法人の責任者を定め、権限委譲して事業の運営を任せることにより、ハイレベルな経営幹部を育成できる

5.全体のスケールメリットと、個による意思決定のスピード感と顧客対応力の両立・ブランド力を高め、規模を拡大するのに有効である

  • 良いグループイメージを浸透させることにより、確かな信用・信頼感を各種取引や採用の場面で生かすことができる

6.規模拡大と集中化による財務力の強化

  • ホールディング会社の求心力を高める
  • 資金管理や財務戦略を一元化して統制管理、担保力、信用力といった資産背景を共有する

7.自主自立の風土の醸成

  • 各事業部、各法人は管理会計を用いた独立採算制とし、それぞれ利益を上げる努力をする

8.スタッフ業務、管理業務等の集中化による効率化とけん制機能

  • 組織規模や体制に見合うように間接業務、管理業務を集約し、コストダウンを図る
  • 監査や業績モニタリング、財務モニタリングによって間接業務、管理業務をけん制する

9.事業承継・株式対策

  • 資本と事業の分離によってオーナーシップと事業承継を別にして考えることが容易になる
  • 株価対策を検討しやすくなる

10.事業の永続発展

  • 柔軟性のある事業組織づくりを通じて経営幹部スタッフを養成することにより、財務基盤を強化し、効率的な経営管理のコントロールが可能となる

以上が10の目的ですが、逆に言えば上手に連邦経営を進めることができたら、これらすべてが実現するという大きなメリットを得ることができます。

社員に向けては「こんなことを目指しているんだよ」ときちんと示して共有し、全社一体感を醸成することが大事です。

グループ全体を統括する運営体制の構築

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それでは、連邦経営を上手に進めるためにはどうしたら良いのかという話に移ります。

まずは、グループマネジメント体制を作ることになりますが、以下の5つを整備していくと良いでしょう。

  1. グループ横断会議体系と業績管理制度
  2. グループ横断プロジェクトや委員会
  3. グループ共通ルール
  4. グループ共通制度
  5. モニタリング制度

それぞれのポイントをお話ししていきます。

1.グループ横断会議体系と業績管理制度

グループマネジメント体制を形成するのに会議は非常に重要かつ有効で、まずこれがないと話が進まないと言っても良いと思います。

とはいえ、今までそのような会議をしたことがないのであれば事業部同士、法人同士の相互理解を深めることが第一歩です。

ヤマチがグループ横断会議を始めた頃の状況

ヤマチユナイテッドも十数年前、グループ横断会議を始めた頃は、隣の事業部がどのようなビジネスモデルで、どのような顧客を対象に、どのような営業活動をしているか、お互いにあまりわかっていない状態でした。

やはり自分の事業部の業績を上げるのに一生懸命ですから、他の事業部に関して互いに知ろうともしないし、興味も関心もなかったのです。

グループ横断会議を始めた頃の幹部社員からしてみれば、会議なんか面倒だし、時間の無駄とも思えるし、なぜ他事業部の話を聞かなければならないのかという感覚ですよね。

それでも、「会社をどんどん大きくしていくためには、グループ横断型の会議を取り入れなければならない」と、経営陣としては考えていたのです。

最初の頃は、グループ経営推進会議として事業責任者を集めても、お互いわからないことだらけ。

その中で他の事業部に対してアドバイスをしたり、ツッコミを入れたりということをしなければならないのですが、どんな仕事が存在しているかも不明なら、専門用語も理解できない、もっと言えば誰が何をしているのかも知らない状態です。

「どんな商品・サービスを扱っているか」「顧客は?」「営業活動はどうしている?」と、本当にこんな初歩的な質問ばかりが飛び交っていたんですよ。

当時でも事業数は十数個ありましたから、事業部ごとにこういった内容で質疑応答をすると丸一日かかります。

今でこそ、この種の会議は3時間程度で収まるようになりましたが、最初はとにかく相互理解を深めるためにかなりの時間をかけました。

そうしてようやく事業責任者たちの間でアドバイスをし合ったり、協力して何かできることがないだろうかという話ができたりするようになったのは1年以上経った頃でした。

皆さんの会社で「うちでもやってみよう」と呼びかけたとして、「時間の無駄」と思いながら仕方なく出てくるような人もいるかもしれませんが、これは決して無駄ではありません。

この会議をきっかけにいろいろな場面で各事業部の上位層の間で情報共有がスムーズになり、その積み重ねによって相互理解が進むのです。

言い換えれば、シナジー効果が生まれやすくする土台を作っていく作業。

ちょっとやそっとではすぐに理解できないと思いますが、無理矢理にでも実行すると必ず意義を見いだせるはずです。

ヤマチのグループ横断会議体系

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2024年10月現在のヤマチユナイテッドにおけるグループ横断会議は2階層になっています。

図でご説明すると「グループ役員会議」と「HQ(Head Quater/ヘッドクオーター)会議(グループ経営幹部会議)」がそれに当たります。

「HQ会議」は、各法人・各事業部の責任者が集まって業績報告と質疑応答をするための会議です。

「グループ役員会議」には、HQ会議のメンバーから選出されたグループ役員が参加します。

グループ横断型会議の目的

グループ横断型会議の目的は、グループの全体統制であり、グループ全体の相乗効果の最大化であり、グループ全体の経営資源の有効活用でもありますから、この目的にふさわしいメンバーを招集してください。

あまり人数が多くなると物事を決められなくなるので、うちでは2階層に分けているのですが、事業数がそれほど多くないなどの事情で出席者が10人以内に収まるようなら1つの会議で事足りるかもしれません。

ただ、物事を決める会議と、全体把握・全体戦略を進めていく会議とは機会を分けたほうが良いと思います。

当グループのグループ役員会議では、意思決定、戦略の検討、情報共有や教育など、複数の目的があります。

特に連邦経営においては「グループ全体の運営に必要な会議」を設置する必要があり、全体把握、全体理解、全体最適の目的のもと設計しています。

ここでは法人間、事業部間など、グループ横断型の組織体制の構築が重要視されます。

「グループ役員会議」は戦略レベルの会議として位置付けられ、グループにおける「最高意思決定機関」の機能を有しています。 

具体的に言えば、ヒト・モノ・カネといった経営資源の投下配分を決める、中期ビジョンに基づいて新規事業や新規出店、設備投資、役員・幹部人事、資金調達などの判断・承認・決裁を行うといったことが行われます。

「HQ会議(グループ経営幹部会議)」は戦術レベルの会議として位置付けられ、ここでの目標はグループ全体の達成と経営改善です。

各事業計画の策定から月次決算に基づく予算の進捗確認、業績の着地予測を行いながら、その差額対策を共有し、各事業部が協力し合って全体最適に向けて協働する場です。

各法人・各事業部においてもそれぞれの「経営会議」を設計していますが、これと「HQ会議(グループ経営幹部会議)」とで異なるのは、「グループ全体業績の達成を目的としている」という点です。

管理部門を集約する会議の設計

組織がもう少し大きくなっていって管理部門が複数できてくる頃になると、「グループ役員会議」と「HQ会議(グループ経営会議)」のほかにもう一つ、管理部門を集約する会議も設計すると良いでしょう。

グループ全体統制を目指す中で何か新しいことをするときにはルールを決める、制度を新設あるいは改定するといったことが必要になるので、「グループ管理部門」で集約して調整するような場を設けるのです。

また、「グループ管理本部」も用意して、ここを主体に管理部門業務の統制やコントロールをきちんと行うと、「安心・安全」なグループ運営を担保することができるようになります。

攻めと守りのバランスを取る意味でも導入すると良いと思いますし、事実うちではこの3つの会議がうまく機能しています。

業績管理制度

業績管理制度については、グループ全体できちんと業績を計測するためのルールを統一化していくのが大事。

売上の計上ルールや基準、仕入れの基準、経費の勘定科目、会計ソフトなどの使用ツールやソフトといった中で全社でそろえられるものはそろえましょう。

そして少なくとも月次の決算を行なって、毎月行われるグループ経営会議で業績を検討するということを基本にするのです。

当然、グループ全体を見渡すと事業部あるいは法人によって業績に凸凹はあるでしょうが、それを把握しながら、全体として数字を含めた経営計画を策定します。

グループ全体の売上、粗利益、営業利益、経常利益はいくらだと、合算で良いので立てておいて、その進捗はどうなのかとグループ全体の業績管理を会議の中で行います。

事業部が複数ある1つの会社の中でやるにしても同じで、それぞれの責任者が毎回ちゃんと会議に参加して報告をするという体制を整えておくことが必須です。

2.グループ横断プロジェクトや委員会

連邦経営において、大小さまざまな経営課題の解決を図るプロジェクトや委員会は、事業部内で作る、法人単位で作る、法人を飛び越えてグループ単位で作るという3段階があります。

プロジェクトは目的を果たしたら解散してかまいませんが、委員会はグループ共通の課題を解決するため、不具合を改善するために割と恒常的に活動をするテーマを担当します。

特にグループ委員会はグループの共通経営課題を解決するためのものですから、社員が自発的に活動テーマを提案するのも悪くないのですが、目的を考えるとグループ経営会議でテーマを協議し、メンバーを選定して設置されるべき。

各段階の委員会の優先順位としては「グループ>法人>事業部」ということになりますので、まずはグループ横断型の委員会のメンバーを選び、次が法人、次が事業部のように進めます。

同じ人が2つも3つも委員会活動に携わるのは負担が大きいですから、グループ横断型の委員会のメンバーが決まったら、次はそのほかの社員から選ぶというようにしましょう。

グループ横断型の委員会はあくまでグループ全体で共通して取り組むべきテーマを扱います。

例えば、人材育成はグループ共通で実施すると、とても効率が良いはずです。

指示命令系統としては、グループ横断型の委員会はグループ経営会議、法人内の委員会は法人の経営会議、事業部内の委員会は事業部の経営会議とつながっているという関係性になっています。

責任の所在も同様で、各経営会議の権限が各委員会に移譲されているという状態。

そうすることで、事業部や法人を超えた交流が委員会を通じてできるようになります。

先ほど会議のところで説明したように上位層は会議でつながりますが、中間層および現場に近い社員はプロジェクトや委員会で連携するという形です。

3.グループ共通ルール

各事業部、各法人それぞれで規則を定めている場合、そろえられる規則はそろえたほうが良いですね。

例えば、就業規則や給与規定、権限規定、業績規定、投資基準、業績管理、財務、配当ルールなど。

また、細かいことかもしれませんが、経営計画書や事業計画書、業績報告書といった書類のフォーマットをそろえるのも意外に大事。

管理項目を統一するといったことはもちろん、どの事業部、どの法人も同じフォーマットを用いることで見やすく把握しやすいといった利点があります。

「同じような考え方・プロセスで執行していく」という基本形を持つことで、グループ内で異動した場合にも同じように物事を進めることができるでしょう。

4.グループ共通制度

制度についても、グループ共通でそろえるべきものはあると思っています。

具体的に4つほど挙げておきましょう。

①報告制度

週次・月次・四半期・年次のタイミングで業績報告を行います。

うちの場合、現場レベルでは少なくとも週次で報告を上げてもらって、基本のPDCAがうまく回るように進捗確認の会議を設定し、この会議の内容を週に1回、グループとして共有するということを行なっています。

その上で、必ず月次決算を組んで営業利益を把握し、それについて事業部単位、法人単位、グループ単位の会議で議論するという流れです。

四半期では、期初に定めた事業計画の振り返りの機会を3カ月ごとに設け、場合によっては見直しをかけています。

そして年次では、年間報告として1年を振り返ってどうであったか、次年度はどうするのか、年度決算報告も含め、上場企業でいう株主報告のようなことをして、しっかり記録にも残します。

この記録は知見にもなり、今後の教訓として役立ちます。

②人事制度

人事制度について、特に等級制度がある場合は各社共通にしてしまえばグループ内での異動がしやすくなるでしょう。

評価制度や賃金制度、退職金制度等も含めて統一すると、異動があっても不利にならないという利点があります。

事業を多角化している場合、賃金などは事業内容の違いによって全社員、全業種が必ずしも同じにならず賃金水準や使用する賃金テーブルの違いが生じてしまうケースはありますが、一般的に正社員総合職で採用する社員については、同じ基準目線で次のステップを狙えるようなテーブル設定、賃金設定をしておくと良いと思います。

歩合やインセンティブはその上に乗せていけば良いので、ベースはできるだけそろえて、業種・業態によって一部ローカルルールを認めるようにするのが良いのではないかと考えています。

人材育成・採用についても、各事業部・各法人それぞれで同じようなことを実施しているのなら共通にしてしまったほうが効率が良いですし、グループ採用という形で人材を集めれば、配属先はバラバラでも同じ基準、同じ目線で幹部候補生を育てることができるでしょう。

グループ共通で新人研修を行えば、新入社員の目線や価値観もそろうので、入社後に各社で行うオリエンテーション研修や基本教育が不要になるのも良いところです。

③グループウェアや社内SNS

縦横斜めの連携を図る上で、情報共有ツールの導入は非常に有効です。

一つお願いしておきたいのは、予算をあまりケチらないでほしいということ。

一般的には真っ先に削られたり、後回しにもなったりしがちなところですが、今後ますますデジタル分野が発達していくだろうと考えると、こういったツールはどんどん当たり前になっていくでしょうから、この辺の投資はある程度予算に組み入れて考えておくべきです。

何より、グループ内情報共有や社員間コミュニケーションの向上は重要な経営テーマですから。事業部や法人が増え、社員数が増えるとより必要性は高まるでしょう。

ツール導入の際は「社員1人当たりいくら」のようにお金がかかりますから、縦割り組織のままだと、現場から「経費がかさむから、うちはいらない」と言われてしまうこともあるかもしれません。

しかし、連邦経営を実践していくのなら、「グループ全体として必要なものなのだ」という意識で使ってもらわないといけないので、多少根回しした上で、ある意味トップダウンで導入すべきかと思います。

こちらのコラムもあわせてご確認ください。

社内コミュニケーションを活性化させるグループウェア活用法をご紹介

④グループ共通行事の実施

行事は本当に何でもかまいません。

交流会、勉強会、事業計画発表会、中間進捗発表会、中間キックオフミーティングなど。

2020年以降はコロナ禍だったということもあり、しばらく実施していませんが、ヤマチユナイテッドグループでは全社の運動会のようなレクリエーションもあります。

こういった共通行事を通じてグループとしての一体感を高め、社員同士の交流を促進することが個々のモチベーションアップにもつながると思っています。

少なくとも、年1回の事業計画発表会と中間進捗発表会は実施していただきたいですね。

5.モニタリング制度

モニタリング制度は、グループ全体を対象とした事業性の評価、決算分析・経営分析とフィードバック、会計監査・税務監査・業務監査などを行うためにあったほうが良いと思います。

うちでは少なくとも年1回、決算のあとに、グループ本部の機能を有する管理部門が決算分析や経営分析に基づいた事業性評価を出し、グループの幹部にフィードバックするという形を取っています。

監査は、経営を適正に進めていくために入れておくと安心です。

業務監査は自社でもやれないことはないですが、会計監査、税務監査に関しては、コストはかかりますが、グループ全体をくくって外部に委託するというように監査契約を行うのが良いでしょう。

「連邦経営」の導入で縦割り組織のデメリットを改善しよう

縦割り組織のデメリットとしては、事業部同士、法人同士の協力関係が築けない、他の事業部・他の法人のサポートに回るという意識が生まれない、無関心になりやすいことが挙げられます。

これではいくら多くの事業を立ち上げようが、多角化経営のメリットであるシナジー効果を得ることができません。

複数の事業部や法人を縦横斜めに連携させる「連邦経営」を導入することで、縦割り組織のデメリットを改善しましょう。

連邦経営は、社員同士の交流を促し、シナジー効果が生まれやすくなるというメリットがあります。

連邦経営を上手に進めるためには、グループマネジメント体制を作ることになります。

以下の5つを整備することをおすすめします。

  1. グループ横断会議体系と業績管理制度
  2. グループ横断プロジェクトや委員会
  3. グループ共通ルール
  4. グループ共通制度
  5. モニタリング制度

今の時代、多角化は中小・中堅企業にとって必要な経営戦略ですが、上手に進めていかないと縦割りの組織を横展開していくだけになってしまう可能性が非常に高いと考えています。

ある程度のところまで成長した段階で、「ここらへんで互いに協力し合ってほしい」「人事異動を実行したい」と思ったときには「もう動かせなくなっている」と、そんな困りごとをすでに皆さんは抱えていないでしょうか。

まずは、「なぜ連邦経営をするのか」と思考をめぐらせ、全体最適の経営に切り替えていくことが出発点になります。

これから多角化をしていこうとするのであれば、早い段階でこのような進め方をしたほうが成功率が上がりますし、組織としても柔軟で強い体制を作ることができますよ。

連邦経営について、もっと知りたい・勉強したいと思われる方は、ヤマチユナイテッドの「連邦・多角化経営実践塾」へのご参加をおすすめします。ご検討ください。

連邦・多角化経営実践塾

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