経営戦略
経営計画の基盤トリプルNo.1
「2025年物語」に描かれた理想の未来像のひとつが、トリプルNo.1です。これは、業績・顧客満足度・社員満足度のすべてにおいて大分県の葬儀業界No.1を達成するという目標であり、経営計画の基盤ともなります。どれかひとつの達成だけでもなかなか困難なもの。しかし、大の葬祭では3つ同時に進めてきました。「どれが欠けても好循環は生まれません」と川野さん。「社員がやりがいを持って健康的に働く。それが、よりよいサービスへとつながり、お客さまは満足するから相応の対価を払ってくださる。会社の業績が上がれば、社員に還元できる——というふうに、業績・顧客満足度・社員満足度は相互に深く結びついているものです。だから、切り離せない。同時に向上させることで、相乗効果も生まれます」。
4年間でトリプルNo.1を達成するために、4つの戦略を立てました。それが、「営業・広報戦略」「社員満足度UP戦略」「財務戦略」「新規事業戦略」。これらの戦略の策定と運用は、社長の川野さんと、長弟である副社長、マーケティング・生産性向上・営業それぞれを専任する4人の執行役員が担っています。戦略は実行しなければ、絵に描いた餅。そのため、戦略を実行するための仕組みづくりにも尽力してきました。例えば、営業・広報戦略ではカスタマージャーニーマップを作成して、KPI(重要業績評価指標)管理を行なっています。
- 業績・社員満足度・顧客満足度のNo.1を目標とする。3つを循環させることで事業も企業も伸びていく。
- トリプルNo.1を達成するための戦略を立てる。目標達成には緻密な戦略が必要である。
- 戦略を実行するために仕事は仕組み化する。戦略を実行して成果を上げるためには、仕組み化が有効である。
業績No.1のための戦略4つの新規事業
トリプルNo.1のうち、業績No.1を支えるのが「新規事業戦略」です。ここでは、現在進行中の4つの新規事業を見てみましょう。
1 ウィズコロナ時代の新お葬式様式《時差会葬・オンライン会葬》
これは、新型コロナウイルス感染拡大の煽りを受け、お客さまの切実な要望から生まれた事業です。2020年4月、大の葬祭がミッションに掲げている「より良いお別れより良いご供養」のできない日々が続いていました。
そのなかで、感染リスクを避けて会葬したいという想いに応えるために、時間をずらしてお参りしてもらう「時差会葬」、遠方から参列したいという想いを叶えるために、ウェブ会議システムを活用した「オンライン会葬」を考案したといいます。試行錯誤を重ね、いまは新しいサービスとしてすっかり定着しました。
2 全国初!葬儀のDX化《アバター会葬》
これもまた、新型コロナウイルスの影響下で生まれた新しいお葬式のかたちです。大分県とANAホールディングスの共同事業に、大の葬祭が協力しています。
ANAアバターロボットを活用して、遠隔地から会葬するというもの。
オンライン会葬と似ていますが、アバター視線になるため、実際に現地でお参りしているような感覚になるそうです。実証実験が終わり、いよいよ実用化へと動き出しました。
3 医療・介護の先にある葬儀・供養のサポート《人生会議》
昨夏、大分県では「豊かな人生を送るために『人生会議』の普及啓発を推進する条例」が制定されました。人生会議とは、自分の望む医療・介護について周りの人たちと共有しながら、県民の人生の質を高めようという取り組みです。
いま、大の葬祭では、県内の葬儀社と連携しながら、医療・介護の先にある葬儀・供養のプロとして県民の相談にのる仕組みを考案しています。これはビジネスではなく、非営利事業。自社オリジナルの取り組みとしては、葬祭会館を活用して相続対策セミナーや終活セミナーを実施しています。
4 大分空港から宇宙に納骨《宇宙葬》
2020年4月、大分空港がアジアではじめて「宇宙港」に選ばれました。専用の航空機にロケットを搭載、滑走路を使って人工衛星を打ち上げるのだとか。アメリカの宇宙開発企業と大分県が提携を結びました。大の葬祭は、安定したサービスを提供したいという理由で大分県外への出店を考えていません。しかし、店舗を必要としない宇宙葬なら、アジアに商圏を広げてみるのはありなのではと事業化を構想しています。
川野さんは「石橋を叩いて渡る性格」なのだと言います。事業を展開するときは、一石二鳥 どころか「一石四鳥くらいになれば…」といつも考えているそうです。「当然のことながら、伸るか反るかの事業には手を出しません。しかし、みんながワクワクする要素が、事業には必要だということもよく理解しています。だからこその新規事業ラインナップだと思いませんか。」
- お客さまのニーズをくみ取る。お客さまの困りごとに向き合い、解決策を考えることで新しいサービスは生まれる。
- 自治体や企業と連携する。自治体や異業種企業とのコラボレーションから斬新なアイデアが生まれる。
- ワクワクできる事業を想像しながら創造する。実現可能性だけではなく、夢のある事業にも取り組みたい。
顧客満足度No.1のための戦略アフターサポート
顧客満足度No.1を実現するための戦略が「顧客満足度戦略」です。葬儀社のお客さまは、大きな喪失感を抱えるご遺族。だからこそ、こまやかなサポートが必要でしょう。
大の葬祭の強みは、頼もしいアフターサポートです。十三回忌までの法要を請け負うほか、通夜・葬儀が終わったあと、供花と線香を携えて自宅を訪問しています。お客さまに寄り添い、悲しみや困りごとに耳を傾け、サポートしてきました。たくさんの感謝の声が寄せられるといい、Googleマップのクチコミも上々です。
しかし、川野さん曰く「面と向かって本音は言いにくいものです。だから、お客さまアンケートは東京のコールセンターに依頼しています。苦情はほとんどないものの、要望はある。それは業務改善の参考になることばかりです」。
アンケート結果は、項目ごとの点数とトータルの点数を算出して顧客満足度の指標にしているといいます。自己満足ではない顧客満足度を知ることで、サービスの質はどんどん向上するはずです。
- 通夜・告別式のあとのお付き合いを大事にする。十三回忌までの各種法要をサポートする。
- お客さまの本音を事業に活かす。お客さまの本音は、サービスの質を向上させるきっかけとなる。
- 第三者機関に依頼して顧客満足度を測る。苦情や本音は本人には言いづらいもの。だから、アンケートは第三者機関に委ねる。
社員満足度No.1のための戦略業務委託チーム
葬祭業は労働環境が厳しいといわれます。それもそのはず、不祝儀は突然やってくるもの。だから、葬儀社は365 日24時間いつでも営業中です。それは長時間労働につながり、社員の離職や採用難を招きかねません。人材不足は、さらなる労働環境の悪化の原因となります。それは、社員の仕事ぶりやモチベーションを低下させ、ひいてはサービスの質を下げ、客離れを起こし、会社の業績にダメージを与えるかもしれません。この悪循環に陥らないために、川野さんは社長に就任してすぐに働き方改革を断行しました。業務内容の見直しはもちろん、日勤と夜勤を明確に分けて、それぞれ専任スタッフを置くなど体制から改めたといいます。残業時間は激減。残業がある月でも20時間以内に収まり、有給休暇の取得率も100%になったのだとか。
さらに注目すべきは、「業務委託チーム」の立ち上げです。かつては、電話を受けてから通夜・告別式のあとの集金まで、担当者がひとりで行なっていました。その方法では、業務量が多く、意外とお客さまにしっかり向き合えません。そこで、外注できる仕事は、社外のプロに任せて、お客さまに寄り添うことに専念しようと考えました。そうして結成されたのが、業務委託チームです。繁忙期の人手不足に悩まされることがなくなりました。忙しいときだけしか発注できないため、時給は通常の2倍に設定したといいます。それでも、社会保険料がかからないぶん、コストはそれほどかかりません。そのため、利益に応じてインセンティブを支払う余裕があるそうです。
- 業務委託チームをつくる。社員と、繁忙期に協力してくれる社外スタッフとでひとつのチームをつくる。
- 社外スタッフには破格の時給を設定する。快く協力してもらうために、通常の2倍の時給を用意する。
- インセンティブ制度を設ける。繁忙期と閑散期の落差による収入の不安定さを解消するために、利益に応じたインセンティブを用意する。
組織運営
得意分野に専念できる仕組み4兄弟の役割分担と結束力
川野さんは四人兄弟の長男です。次男は副社長、三男は常務、四男は本部長で、力を合わせて大の葬祭を盛り立てています。目を見張るのは、その結束力。それは、そのまま大の葬祭が飛躍を続ける原動力になっているようです。
しかし、「喧嘩をしていた時期もありましたよ」と、川野さん。「原因は役割分担をしていなかったこと。船頭多くして船山に上るといいますが、まさに迷走するところでした。そこで、それぞれの性格と得意分野を活かして、役割を明確にしたのです。そうすると、自分の得意なことに専念できるから仕事がうまくいく。仕事がうまくいけば、相手を尊敬できる。というわけで、いまは仲良くやっています」。
川野四兄弟は、もともと仲が良い。葬祭業を営む両親が多忙だったため、川野さんが弟たちの世話をしていたといいます。それもあり、弟たちのなかには自然と兄を立てるという気持ちが芽生えていました。さらに、父親である二代目社長が、川野さんの知らないところで弟たちに後継者となる長男の不自由さと責任の重さを説き、うらやましがらずに助けるように諭していたそうです。
- 長兄を立てる。川野さんが幼い弟たちの世話をしていたことで、長兄を立てる下地ができあがっていた。
- 長兄をうらやましがらない。父親が弟たちに、後継者となる川野さんの不自由さと重責を説明していた。
- 得意を活かした役割分担をする。誰が何を担当するのかを明確にすることで、不用な衝突は避けられる。
連邦・多角化経営実践塾の思い出「周年行事で儲けろ」という教えが衝撃的だった
連邦・多角化経営実践塾では、さまざまな気づきがありました。なかでも記憶に鮮明に刻まれたのは、周年行事で儲けなさいという教えです。そこで、50周年記念行事の準備を進めてきました。ロゴをつくり、広告を打って、特典をさらに充実させた入会キャンペーンを実施中です。周年行事が、新たなお客さまとの接点になるとは!
(第6期 連邦・多角化経営実践塾の卒業生/川野晃裕さん)
Company
会社概要
株式会社 大の葬祭
本社/大分県豊後大野市三重町菅生431-204
代表者/代表取締役社長 川野 晃裕
創業/1971年
資本金/1,000万円
社員数/45名(パート含む)+外部委託スタッフ30名
お問い合わせ/HPの問合せフォーム
Editor’s note
編集後記
創業50周年を迎えた大の葬祭さまの2分野5つの取り組みはいかがだったでしょうか。経営計画「2025年物語」のなかには、取り入れたい経営のヒントがたくさんありました。インタビューで印象に残ったのは、川野社長のご兄弟の仲の良さです。それは、育ち方と、お父さまである二代目社長の教育方針に拠るところは大きいでしょう。しかし、「それぞれの性格と得意分野を活かした役割分担」も、とても重要な秘訣だと感じました。そして、これは兄弟だけではなく、親子や親族あるいは血のつながらない社員同士にも応用できる秘訣なのではないでしょうか。
川野さんの頭の中には、2025年よりもさらに先の展望がありそうです。これからも大の葬祭と親会社であるハートネットホールディングスから目が離せません。
次回も、どうぞお楽しみに!
公開日:2021年7月16日
※内容はインタビュー当時のものです。