vol.2

株式会社 KGRITさま

写真:KGRITのスタッフ

KGRITはこんな会社です

家具店から始まった建築のプロ集団

KGRITは、まもなく創業100年を迎える長寿企業です。大正後期の1921年、東京・浅草寺の雷門の程近く、桐タンス職人である父親の跡を継いだ2代目が、「金川タンス店」を開きます。1951年に「金川家具店」として法人化したあとは、1968年に建装、1992年に不動産、2013年にホテル、2016年にリノベーション住宅販売へと事業を広げてきました。

2017年に社名を「KGRIT」と改め、2019年には家具工場を開設、現在は店舗デザインを強化しています。長い歴史の中で築きあげてきた確かな実績と厚い信頼をもとに、さらなる発展を目指して、その歩みを止めません。

この人に話を聞きました

写真:代表取締役社長 井藤 元希さん

代表取締役社長 井藤 元希さん

「家業を継ぐように言われたことはなかった」と、入社当時を振り返る井藤元希さん。大学では文学を専攻、卒業後は演劇の仕事に就き、家具や建築とは無縁の道を切り開いていたそうです。30歳を目前にして、仕事での目標が達成できたことから、株式会社カナガワファニチュア(現・KGRIT)への入社を決めました。スタートは不動産で、自社マンションの空室を埋めること。先輩たちの背中を見て学び、4年間で満室を実現させました。

そのあとは、2017年に44歳で4代目社長に就任するまで、不動産・現場監督・経営を満遍なく担ってきました。もともとの素質か、舞台づくりや現場監督の仕事で培われたものなのか、視野の広さとバランス感覚、進取の気性に富む井藤さん。経営者となったいまは、社員たちの適性を見極めながら、さまざまな取り組みを進め、長い歴史を誇る会社に新しい風を吹かせ続けています。

趣味らしい趣味はないと言いながら、読書と観劇が好きだと明かしてくれました。「自分が携わっていたような演劇はあまり観ませんが、シルク・ドゥ・ソレイユのようなステージを観に行くことが多いです」と、穏やかに微笑みます。休日は愛娘と遊ぶという優しい父親であり、頼もしい社長である井藤さんが、KGRITの取り組みを語ってくれました。

事業内容

建設業・不動産業・ホテル業を主軸とした総合企業

写真:株式会社 家具のカナガワ時代

第一次世界大戦が終わり、世界が秩序を取り戻そうとしていた大正10(1921)年、東京都台東区にある浅草寺の雷門の程近くに、「金川タンス店」が開業しました。のちのKGRITです。創業時の事業内容は、桐タンスの製造・販売。井藤さんの曾祖父にあたる初代は職人でもあり、当初は自ら桐タンスをつくっていたそうです。

第二次世界大戦による休業を乗り越え、昭和26(1951)年には「有限会社 金川家具店」を設立。住宅だけではなく、飲食店などの店舗にも家具を納めるようになります。良い家具を置けば、ふさわしいしつらえを求めたくなるというもの。内装や外装から手がけるため、昭和43(1968)年に建装事業部を立ち上げます。

昭和59(1984)年、現在の所在地である千葉県船橋市に移転、社名を「株式会社 家具のカナガワ」と改めました。ここに、「造作や特注家具の製作を得意とする空間づくりのプロ集団」という、KGRITの原型が完成します。

平成になって、社名を「株式会社 カナガワファニチュア」として、不動産業、ホテル業へと進出。さらに、その経験を生かして、住宅のリノベーションを手がけるようになります。

写真:KGRITの社内
写真:KGRITの社内

KGRITの事業を一言で説明するのは難しい。それは、さまざまな顔を持っている会社だからであり、創業以来、時代や顧客の要請に応じて事業を展開してきた結果です。「数年前まではレジャーホテルの施工が主力だったので、〈レジャーホテル施工実績日本一〉と説明していました。いまは、それ以外の事業が伸びていて説明が難しくなりました」と井藤さん。それは多角化の成功といえるでしょう。

老舗や長寿企業には、伝統という守りと変革という攻めがバランス良く機能しているものです。KGRITも例にもれず、職人らしいものづくりへの誇りと、新しい時代を見据えた挑戦が、息づいています。そこに飛躍の秘訣とKGRIT「らしさ」がありそうです。では、三つの取り組みを見ていきましょう!

理念

理念を浸透させるツールミッションカード

KGRITには、「3つの約束」という経営理念があります。創業100年を迎えるにあたり、これまで歩んできた歴史とこれから向かう未来を考えて、改めて明文化しました。

  1. 義理人情を大切にし、仲間、関係会社、お客さんの輪を広げていこう。これは、いつの時代でも、活動の場が地元から日本全国、さらには世界へと広がっても、その中心にあるのは「義理を欠かない、情の厚い人々である」という考えに基づくもの。人と人とのつながりを大切にしてきたKGRITらしい決意です。
  2. 技術と人格の向上を目指して、学び続けられる環境を提供しよう。若手は若手なりの、ベテランはベテランなりの、それぞれの立場で学び続けることの大切さを認識しているからこそ、全社を挙げてバックアップするという宣言です。
  3. 仲間とその家族が「働いてよかったな」と思える会社を目指そう。これは、お互いに価値観の違いを認め合い、それぞれの能力を発揮して成長していくことを働く歓びと考え、その楽しく働く姿は家族をも幸せにするという信念に基づくもの。そういう幸せを創造する場として会社をとらえています。
写真:ミッションカードを持つ社員
写真:ミッションカードを持つ社員

経営理念は、額縁に入れて社長室に飾っているだけでは価値がありません。社員から経営陣に至るまで、その意味をよく理解して、みんなで実践してこそ、真価を発揮します。そのためには、一人ひとりが理念を諳んじて、行動規範とできなければならないでしょう。「理念を浸透させるために、ミッションカードをつくりました」と、井藤さん。社員や経営陣が定期的に集まって、ミッションカードで経営理念を確認しながら、ディスカッションしているそうです。「さらに、デザインの得意な社員がステッカーをつくり、いまはスマートフォンケースをつくると張り切っています」。

  • 経営理念は「約束ごと」と認識する経営理念を会社、顧客、自分、家族との約束ととらえることで、実践しやすくする。
  • 経営理念について話し合う場を設ける定期的に社内で話し合うことで、全社一丸となって取り組みやすくなる。
  • ミッションカードをつくる経営理念を他人事にしないためには、常に身近に置くことも大事である。

社風

新型コロナ禍から生まれた新企画KGRIT版サラメシ

NHKで放映されている「サラメシ」という番組があります。さまざまな職業の人たちのランチをウォッチングする、あれです。最近、KGRITで「サラメシ」にヒントを得た企画が立ち上がりました。各部署の料理自慢たちがお弁当をつくり、それを全員で評価して、ミシュランガイドのように星を付けていくというもの。記念すべき第1回は経理部が担当、その後は持ち回りで1カ月に1回実施する予定なのだとか。

写真:KGRIT版サラメシの様子1
写真:KGRIT版サラメシの様子2
写真:KGRIT版サラメシの様子3

企画・運営は、社内の各種イベントを担っているレクリエーション委員会のメンバーたち。井藤さんによると、「新型コロナウィルスの影響で、社員の集まる機会が減ったため、三密を避けながら、社員のつながりを実感できるイベントを考えたようです」。入社式の夜、新入社員が料理をつくって先輩に振る舞う文化のあるKGRITらしい企画です。

  • 各部署から料理自慢3人を選ぶ当面は三密を避けるために、調理は少人数で行う。ほかのメンバーは後方支援へ。
  • 料理は弁当容器に詰める三密を避け、さらに同時刻に一箇所に集まる必要がなく、参加できない人をなくせる。
  • 配送スタッフが配達を担当するKGRITには、施工現場に資材や造作家具を運ぶ専任スタッフがいる。彼らが、配達を担うことで、全社員がお弁当を手にできるのだ。

若手が会社の歴史を知る機会100周年委員会

2021年の創業100周年をどのように迎えるのか、それを検討するのが「100周年委員会」です。いま社内で進んでいるのが、社史の編纂。外部に委託せず、若手社員がベテラン社員にインタビューするという方法を取りました。「若い社員たちは、会社の歴史にほとんど興味がありません。それ自体は無理もないことですが、脈々と受け継がれてきた義理人情や職人魂は継承してほしいと思っています。そこで、若い社員を委員に任命しました」と、井藤さん。その思いをしっかりと受け止め、30代のリーダーを中心に奮闘しています。

写真:100周年委員会の様子
写真:KGRITの社員
写真:100周年のロゴ
  • 周年という節目を活用する周年記念は、会社の歴史や経営理念、先人たちの業績、思いを深く知り、行く末を見つめるきっかけとなります。
  • 社史を編纂する資料を整理して「社史」にまとめることは、会社のアイデンティティーが認識できる。
  • 周年委員会を発足させる若手社員が先輩社員との交流を深め、会社についてよく知り、プロジェクトの進め方を学び、成長するきっかけとなる。

男の職場に変革をもたらす女性率の向上

近年は女性が増えてきたとはいえ、建築は男性の多い業界です。その傾向が顕著なのは施工現場で、責任者である現場監督はほとんど男性が務めています。KGRITも例外ではありません。しかし、井藤さんが社長に就任してから、女性の現場監督が誕生しました。

写真:女性社員
写真:女性社員
写真:女性社員
  • 「常識」にとらわれない男性あるいは女性にしかできない…それは会社や業界の慣習ではないだろうか。会社の成長のためには、「常識」や「前例」を疑うことも必要である。
  • 女性の採用を増やす男女の割合が極端に異なる職場には、女性を積極的に採用することで変化が生まれる。
  • 女性の視点を生かす性別や年齢が偏りがちな職場には、異なる視点がほしい。長らく男ばかりの職場だったとしたら、女性の視点から見てみると新しい発見があるだろう。

教育

若手とベテランの共同作業業務マニュアル

井藤さんは、社長に就任して早々に業務マニュアルをつくりました。「上の世代の人たちが培ってきた技術を言語化して、下の世代へと伝えたいと思ったのです」。目指したのは、無印良品のマニュアル。これは、属人化していた業務を標準化して、スキルやノウハウを蓄積するためにつくられたもので、無印良品の躍進を支えているといわれます。KGRITの業務も属人化されているものが多かったようです。「良くも悪くも職人気質の会社なので、私が入社したときも、仕事は先輩の背中を見て覚えていくスタイルでした。見よう見まねを全否定するつもりはありませんが、効率は悪くなってしまいます」。

写真:業務マニュアルを手に取る社員たち
写真:業務をこなす社員
写真:業務マニュアル

その弱点を克服するためにも業務マニュアルが必要でした。ベテラン社員が作成を担当して、2年前に完成。そのとき、「自分の仕事を振り返りながらのマニュアルづくりはとても勉強になった」という声が聞かれたそうです。「そこで、若手の成長を期待して、いま若手に業務マニュアルを更新させています」。

  • 業務マニュアルをつくる仕事を可視化して客観的に見ると、多くの気づきが得られる。
  • ベテラン社員が技術を言語化する背中で教えてきた仕事を言葉で説明することは、自らの学びにつながる。
  • 若手社員がフレッシュな視点で加筆する教える側のベテラン社員がつくった業務マニュアルに、教わる側の若手社員が加筆することで、よりわかりやすいものとなる。同時に、若手社員の成長が期待できる。

技術を絶やさないために手描き図面研修

建築の仕事には、図面が欠かせません。一級建築士でもある井藤さんによると、「いまはCADというソフトで図面を描きます。パソコンが普及する前は、全て手作業でした。その技術を絶やしてしまうのはもったいないと思ったのです」。

そこで、「手描き図面研修」を始めました。「手で図面を描いていた人ほど、物事を立体的に考える3D思考に優れていると感じる」といい、手描きの技術を継承していくと決めたのです。

写真:手描き図面
写真:手描き図面研修
  • 社内に伝わる技術を再確認する機械化、デジタル化によって便利になる一方で、失われる技術も少なくない。次世代へとつなぎたいけれど、消え入りそうな技術を社内で探してみよう。
  • 技術から得られる能力を見定める実務では使わなくなった技術から、仕事に生かせる能力を得られることがある。
  • 技術を学べる場をつくる通常の業務の中では継承できない技術は、日時を設定して研修を実施する。

社員みんなにメンターを親子制度

KGRITには「親子制度」があります。これは、「里親」となる社員が、自分の「里子」となる社員の業務やメンタルをサポートするもの。特徴的なのは、全社員が誰かの里子であること。例えば井藤さんは50代の社員の里親になっているといい、新入社員や若手社員だけに里親がつくわけではありません。いわゆるメンター制度のKGRITオリジナル版であり、「すべての社員にメンター役がいる」という状態がつくれました。

1年に3つの目標をたて、3カ月ごとに里子・里親・社長の三者面談をします。社員が悩みを打ち明けてくれるようになったと、井藤さんが変化を話してくれました。「社長はわかってくれていると思うだけで落ち着くこともあるようです。制度がうまく機能するようになり、いまは私の代わりに、メンタルケアの訓練を受けた社員が面談を担当しています」。

写真:親子制度の様子
写真:親子制度の様子
写真:親子制度の様子

一番の収穫は、里親の成長。「価値観の異なる新入社員や部下、後輩を指導する経験を積んで、里親たちがしっかりしてくるのです。背中で指導していた職人気質のベテラン社員たちは、口での説明を繰り返すことで、言語化が上手になりました」。育てる側の里親たちが、逆に育てられているようです。

  • 全社員が「里子」となる全社員を「里子」として、「里親」となるメンター役をつける。仕事のアドバイスや相談を必要としているのは、新入社員や若手社員だけではない。
  • 「里子」が目標をたてる「里子」に目標をたてさせ、「里親」がその達成をサポートする。
  • 定期的に面談する話しやすい環境をつくることは、業務遂行にもメンタルケアにも良い効果をもたらす。

新入社員を孤立させない日記とビジネスチャット

KGRITでは、「日記」を新入社員に課しています。「業務日誌というよりも、気づいたことを記録させて、社員みんなでフィードバックするという交換日記のようなものです。誰がどんなことで悩んでいるのかがわかるので、声をかけるようにしたら、新入社員の定着率が上がりました」と、井藤さん。新入社員が会社になじみやすくなるそうです。

写真:日記とビジネスチャットのやり取り
写真:ビジネスチャットのやり取りをする社員

また、ビジネスチャットツールも活用しています。「新入社員は資格取得を目標にすることが多いので、勉強の進捗を報告すると、親子制度の親や有資格者がコメントしてモチベートし続ける仕組みをつくりました」。見事に資格試験の合格率が上がったそうです。

  • 新入社員に「日記」をつけさせる仕事内容や気づきなどを記す「日記」を習慣化させる。
  • ビジネスチャットツールを活用する新入社員の学習をサポートするために、ビジネスチャットツールのグループ機能を使う。
  • 必ずフィードバックする「日記」を書かせるだけ、学習の進捗を報告させるだけではなく、先輩や上司がフィードバックすること。それが、新入社員の心の支えとなる。

Company

会社概要

株式会社 KGRIT
本社/千葉県船橋市宮本9丁目11番地1号
代表者/代表取締役会長 井藤 憲次、代表取締役社長 井藤 元希
創業/1921年
資本金/3,000万円
社員数/50名
お問い合わせ/HPの問合せフォーム

写真:KGRITの外観
写真:KGRITの社員たち
写真:KGRITのミッションカード
写真:KGRITの社内

Editor’s note

編集後記

KGRITさまの三つの取り組みはいかがだったでしょうか。長寿企業の長寿企業たるゆえんがよく理解でき、会社が成長を続けるためのヒントがたくさんありました。インタビューで印象的だったのは、「うちの会社は発展途上」という言葉です。昔気質な社風と、外から取り入れた文化を融合させている感覚なのだと、井藤さんは言います。「守破離の離にあたり、自分たちなりの文化をつくっていく段階だと考えています」。この謙虚に前進する姿 勢が、100年の歴史を築いてきたKGRIT精神なのでしょう。

KGRITさまのスペルには一つずつ意味があります。Kは、前社名のカナガワファニチュアの頭文字で歴史と伝統への敬意を込めたそうです。GはGRID(空間)、RはRIPPLE(輪)、IはIMPROVE(改善・向上)、TはTOGETHER(仲間)で、企業理念を表しています。さらにGRIT(やり抜く力)は、創業当時から大切にしてきたものです。名は体を表すといいますが、三つの取り組みはまさに社名を体現していました。「過去5回、社名を変えています。いずれも、そのときどきの会社の状態に合う名前をつけていたのでしょう。だから、社名の変更に抵抗はあり ませんでした」と話す井藤さんに、長寿企業の力強さを感じました。

次回も、どうぞお楽しみに!

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