新規事業の立ち上げ。そのプロセスと心構えについて
多角化するノウハウ

こんにちは、中原です。
会社がある程度の実績を上げた段階で、新規事業の立ち上げに目を向ける経営者の方々も多いでしょう。
当グループは多角化経営を推進し、新規事業の立ち上げには積極的な方ですが、「とにかく何かやりたい」と漠然と新しいことを模索し展開してきたわけではありません。
今回は、新規事業の立ち上げのプロセスと立ち上げる前にどのような心構えをしておくべきかということについて解説していきます。
目次
1.新規事業の立ち上げプロセスの第一歩は自社の強みを知ること
ニュースで大々的に「○○社が新しくこんな分野でこんなことを始めました」なんていうのを見て、「よし、うちでも何か新規事業をやろう!」
これ、一番困ります。
翌日すぐに部下を呼んで「そういうわけだから何か考えてくれ」と言ったって、方向性も何も示されていないのに、事業開発の担当者に指名された人も悩むに決まっています。
僕が役員を務めているジョンソンホームズは住宅販売事業を主とする会社ですが、例えば「うちで新規事業...じゃあ、ホリエモンみたいにロケットを開発しよう!」と考えたとして、そんなのできるわけがない。
ロケット開発って儲かるかもしれないし、将来的に必要な技術であることもわかっている。
だけどうちにはそんな技術力も資金もなければ、ビジョンも描けないんですから。
新規事業とは、必ずしも「まったく新しいことをやる」というものではありません。
新規事業の立ち上げで重要なのは自社の強みを踏まえつつ、新しい切り口やコンセプトでどう打って出られるかを分析し、事業の方向性を明確にする事業計画を立てるのが真っ先にすべきこと。
もし部下に新規事業開発を任せるなら「こういう方向性で、こういう事業ドメインの中で考えてくれ」と言うべきです。(ジョンソンホームズであれば、ジョンソンホームズに沿って情熱を持てるビジョン)
2.新規事業の立ち上げのプロセスで重要な方向性の決定方法
レーザーによる切断加工を手がけるある会社では、ほかにもいろいろできる技術があるにも関わらず、「うちでは切ることしかやらない」として、それだけでさまざまな新規事業を成功させています。
新規事業のアイデアって、ある程度制約がないとなかなか出づらいものなんです。
ジョンソンホームズの場合、事業ドメインは住宅関連、そして当社のミッションである「いつまでも続く自分らしい幸せな暮らし」という強みが出せることで新規事業を立ち上げてきました。
月々家賃並みの支払いで建てられるコンパクトな新築住宅「COZY(コーズィ)」、住む人の自分らしさを重視したマンションリノベーションを行う「M+(エムプラス)」、加盟店それぞれに合わせた経営戦略でサポートする「ジョンソンパートナーズ」、中古物件を新築同然にリフォームして販売する「COZYの中古住宅専門店」。
すべて新しいことをやっているかというとそうではありません。
新規事業の方向性はフレームワークで考える
では、どのような制約の中で、どのように方向性を決定するのか。
これは、「新規/既存」×「市場/技術」の掛け合わせのフレームワークを用いると判断しやすくなります。
次の図を見てください。
このマトリックスは、会社が持っている今の市場(顧客)もしくは新しい市場(顧客)と、今の技術(ノウハウ)もしくは新しい技術(ノウハウ)の掛け合わせ方によって、新規事業を実現するための考え方のフレームワークを視覚化したものです。
僕らの例でいうと「住宅販売の経験に基づいた既存のノウハウで、自分のニーズに合った住まいがほしい人やFCとして住宅を売りたい企業といった新規顧客を獲得した」という点で、③の枠での事業開発を行ったことがわかると思います。
皆さん夢見がちなのが④の「違う市場(顧客)×違う商品(ノウハウ)」ですが、まずこんなところは当たりません。いきなり農業やM&Aを行うようなことと同じです。
たぶん④へ行こうとする人の多くは「昨日ニュースで見たんだけど」とか「他社がなんか儲かってるらしいから」とかで新規事業をやりたいタイプでしょう。
さらにこの枠の外側には「今までにない市場(顧客)×今までにない商品(ノウハウ)」というところがあって、それこそロケットとかAIとかの最先端テクノロジー。
「ニュースで見た」なんていうのがまさにこの辺ですけれど、ビッグキーワードに踊らされてはいけません。
今の市場の中に新しい商品(ノウハウ)を取り込んで事業とするのか、今の商品(ノウハウ)を使って新しい市場へ参入して行くのか。
まずは「こっちへ行こう」という方向性を会社として決めないことには、次のプロセスへ進むことができません。
3.新規事業立ち上げ、アイデアの出し方の具体例
僕が「M+」を立ち上げたときのことを例に、具体的な新規事業立ち上げのアイデアの出し方をお話しましょう。
「満たされてないのは誰?」隠れたターゲット層を考える
当時は新築住宅の販売を主な事業としていた当社ですが、僕はふと疑問をいだきました。
ミッションとして「いつまでも続く自分らしい幸せな暮らし」とかって言ってるけど、僕たちが対象とする人は住宅を買う人だけなのか?賃貸やマンションの人はダメなのか?買ってくれない人は敵なのか?
「そんなはずない、その人たちもハッピーになるべきなのになぁ」というのが僕の考え。
試しにマンションの市場を覗いてみると、当然お金を持っている人たちが主なターゲットとなっています。
だけどその中で所得はあるけどマンションが買えない、新築住宅も中古住宅も買えない人がいることに気が付きました。それが単身の女性という層だったんです。
一番ボリュームゾーンも多くて一番購買力もある人たちが見放されているんじゃないかという仮説から、実際はどうであるかという分析に入りました。
札幌市の統計データを調べてみると、世帯の構成に関する数字が出てきます。
当時のデータで、夫婦+子どもが3割、夫婦2人暮らしが3割、独身が4割近く。
この中で35〜49歳の独身女性はどれくらいかな...とかって見ていくと、やはりけっこうな数いらっしゃるんです。
「どうすれば満たされるのか?」ターゲット層の背景を考える
次は「この層はなぜ買わない?」ということを考えていきました。
一人暮らしの女性には、新築マンションは高いし一軒家は怖い。中古マンションもリフォームが必要。
でも、この方々の年齢を考慮すると、ここまで自分一人で生きてきた女性たちにはある種の感性がすでにでき上がっている可能性があるはずなんです。
自分のすみか、自分が落ち着ける場所として、ただきれいにリフォームしただけでは納得がいかないんじゃないか。
そのまた次に浮かんだ疑問は、一軒家には注文住宅というものがあるのになぜマンションにはないんだろうということ。
デザインの巨匠みたいな方がやるリノベーションとはまたターゲットが違うし...などと考えていくと、企業のコンセプトを押し付けるのではなく、お客様にとって本当に必要なものは何かを探るのが鍵かも...と、次第にアイデアが膨らみました。
最終的には、デザインも大事だけれど、お客様を応援するコミュニティーやサポートを前面に出していくのがいいだろうということになり、「M+」が誕生したのです。
先ほどのマトリックスなら、やっぱり③の「現在のノウハウで新規の顧客を開拓する」というところで、僕らは住宅販売で蓄積した知識や技術、サービスを使って新しいマンション市場に出ていったということ。
おかげさまで「M+」はスタートから2年目くらいで、札幌のフルリノベーション分野のナンバーワンを獲得するほどの大きな収益事業になりました。
ビジネスの基本はしっかりと、着眼点を変えて新規事業に繋げよう
ビジネスとは「誰に」「何を」「どのように」が基本。
同じ市場の中でも「誰に」をいろいろ変えてみることで新しい切り口が見えてくることがあります。
今の市場でメインのターゲットが30代なら、40代ではどうか、学生ではどうかと着眼点を変えてみましょう。
あるいは、B to BのサービスをB to Cにするにはどうしたらいいかという見方もできるかもしれません。
また、家族や友人など身近な人が困っていることを自分の事業の中で解決できないかと考えるのも有効です。
「満たされていない人は誰か」「もっとこうだったらいいのに」
僕の場合、こういう疑問や願望を突き詰めていったことが「M+」の成功につながったのだと思います。
もちろん、仮説の裏付けを取るために、統計データのチェックや分析作業も大事ですよ。
4.新規事業の立ち上げのポイントは「明確なガイドライン」
「自社は何のためにこの事業をやるのか」「どこからどこまでの人を幸せにしたいか」
このように「何のため」「どこまで」という区切りがないまま事業開発を任されると、担当者はかなり迷うと思います。
その「区切り」を明確にするのがガイドラインです。
新規事業を検討する際のガイドラインについてはまた改めて詳しい話をする機会もあると思いますが、まずは自社の強みは何かという点をはっきりさせること。
先ほど紹介したマトリックスに沿って考えると、①②③のどの枠に行けばもっとも強みを発揮できるのかというところにつながります。
また、ガイドラインでは社内における開発担当者の位置付けをしてあげるのも大事。
新規事業がうまくいった場合はいいんです。
「あのキャッチコピーは俺が考えた」「ロゴは俺」「アレは俺だし」
成功すれば団体の成果として扱われ、みんなが「俺のおかげ」と言いますが、失敗したら?
「あの責任者が...」「あの人ワンマンですわ」「○○さんのやり方が悪い」
こんなふうに、個人の責任にされてしまいがちですよね。
>経営者としては「みんなの代表としてやってくれている」ことを周知させ、失敗しても担当者だけを責めない姿勢をガイドラインの中で示すべき。
ただでさえ新規事業の立ち上げは大変ですから、普通の心臓の人だったらモチベーションが途切れて持たなくなってしまいますよ。
僕の場合は、失敗したら「失敗じゃねえよ。ていうかやってねえから。あれはテストマーケティングだから」って言いますけどね(笑)
5.新規事業の立ち上げのプロセスは考え方ひとつで変わる!
今回は新規事業について、今回は立ち上げ以前に考えてほしいことについてお話しました。
まとめると、新規事業立ち上げのプロセスで重要なのは次の3つ。
- 新規事業立ち上げのプロセスの第一歩は自社の強みを知ること
- 人気事業の方向性を明確にする
- 新規事業開発のガイドラインを明確にする
新規事業の立ち上げで悩んでいる方や上手く行かない方は、是非この3つのことを参考に考え方をチェックしてみてください。
自社のメリットを生かした新規事業立ち上げのプロセスが見えてくるはずです。
新規事業の立ち上げ方やアイデアの出し方については「新規事業の立ち上げ、アイデアの見つけ方とは?人脈を広げる大切さ」、当社の新規事業立ち上げの成功例については「新規事業の立ち上げ成功例。偶然の出会いから生まれたinZONE事業」でもお話しています。
こちらも是非あわせて読んでみてください。
今後はガイドラインの整備のしかたや統計データの活用方法など、新規事業を検討している皆さんに役立つ話題を順次取り上げていきたいと思います。
SHARE! この記事を共有する
Authorこの記事の著者

株式会社ジョンソンホームズ 取締役執行役員|営業統括部長
中原 一士
2004年(株)ジョンソンホームズ に入社。2009年よりマーケティング統括責任者として新築部門やリフォーム部門の売上を3倍に成長させるなど同社の業績を大きく牽引する。「コンパクトハウスCOZY」や「マンションリノベーションM+」「不動産相続の窓口」など多くの新規事業開発に携わる。"顧客と社員の幸せに繋がる事業づくり"をモットーとし、事業開発ノウハウをまとめた社員教育プログラム「YASINカレッジ」にて社内講師を務める。2016年より取締役執行役員に就任。